Nick Roweが、通常の2次元ではなく3次元のエッジワースボックスのモデルを用いて、交換の媒介たる貨幣への需要超過による不況を説明している。
彼が提示しているモデルは、A、B、Cの3財モデルで、初期条件では、それぞれの財を300単位賦与された(しかし他の2種類の財はまったく賦与されていない)3種類の主体がいる。それぞれの種類の主体は多数いるので、競争市場が成立している。従って、主体はプライステーカーであり、各財の価格Pa、Pb、Pcは所与のものとなる。
各主体の効用関数はU=log(A)+log(B)+log(C)とする。
すると、Aを保有する主体の予算制約は Pa*A + Pb*B + Pc*C = Pa*300 なので、
L = log(A)+log(B)+log(C)-λ(Pa*A+Pb*B+Pc*C-Pa*300)
が最大化すべきラグランジュ関数になる(λはラグランジュ乗数)。
これのAについての一階条件 1/A-λPa=0 より、Pa*A=1/λが求まる。
B、Cについても同様に計算すると、結局、Pa*A=Pb*B=Pc*Cが成立する(所得消費曲線)。これはAを保有する主体だけではなく全主体共通で成立する。
ここで、Bが交換の媒介である、という前提を導入する。即ち、輸送の問題や個々の取引者の匿名性の問題により、AとB、CとBは交換できるが、AとCは交換できないものとする。
その場合でも、もしPa = Pb = Pcならば、市場を清算する均衡は、交換の媒介という前提の導入による非対称性が生じる前と変わらない。即ち、各主体が各財を100ずつ保有することになる。
しかし、Pa = Pc = 2Pbの場合はどうか? その場合、Pbが他財の半額と割安となるため、Bへの超過需要が生じる。そのため、Bの保有者は売りたいだけ売ることができ、効用を最大化できる。彼は、Aを50、Bを100、Cを50消費することになる。これはBが交換の媒介でない場合も同じである。
一方、AとCの保有者は、Bが交換の媒介であるか否かで結果が変わってくる。Bが交換の媒介ではなく、AとCもが交換可能なバーター経済では、AもしくはC保有者の消費は、Aが125、Bが100、Cが125となる。彼らはBをもっと購入したいのだが、他財の半額価格でBを売ってくれる主体を見つけることができない。
Bが交換の媒介の場合には、Aの保有者の消費は、Aが200、Bが100、Cが50となる。Cの保有者の消費は、Aが50、Bが100、Cが200となる。即ち、バーター経済に比べ、元々保有している財を多く消費することになる。Aの保有者はCの保有者に対し、150のBと交換にAを75購入してくれれば、150のBと交換にCを75購入する、という申し出を行いたいと考え、Cもその申し出に応じたいと考えるが、匿名性により、その取引を確実なものとすることができない。
Roweは、これが現実世界の不況を表している、と言う。失業者は自らに賦与された労働力を貨幣と交換できないため、それを自分の手元に過剰に抱え込む状態に陥る。一方、貨幣を持つものは好きなものを好きなだけ購入することができる。失業した配管工と失業した電気技師が簡単に労働力を交換できるのであれば、彼らはそうするだろう。しかし、何千種類もの異なる労働が存在する現実世界の経済では、それは非常に難しいことである。
このモデルの経済は、生産も貯蓄も金利も存在しない一期間の純粋交換経済であるため、ここで導出された不況は、過剰貯蓄や実質金利の高止まりとは関係無い、とRoweは指摘する。また、PaとPbの価格は等しいため、財の相対価格の問題とも関係無い。
またRoweは、このモデルは一期間モデルであるため、クルーグマンの言う世界最小のマクロ経済モデルよりも簡単である、と言う。しかも、世界最小のマクロ経済モデルでは、失業者の自家消費の効用がそれ以外の場合よりも劣ることを説明できない、とRoweは自分のモデルの優位性を指摘している。