債務不履行懸念ではなく非流動性への懸念から銀行取り付け騒ぎが起きる?

昨日紹介したDavid Andolfattoのブログエントリに対しては、脚注に記したように、Nick Roweがコメントしている。ただ、昨日エントリの脚注で紹介したのはAndolfattoの論点3へのRoweのコメントであったが、その他にRoweは論点5についてもコメントし、しかもその内容を敷衍したエントリをWCIブログに立てている

具体的には、Andolfattoの論点5の主張のうち

現金が無くなったら払い戻しを停止する(従って短期的な債務履行に応じるための資産の叩き売りはしない)ということを完全に信頼できる形で約束できれば取り付け騒ぎは起きない

という点についてRoweは異論を述べている。Roweに言わせれば、これは確かにダイアモンド=ダイビックモデルでは成立するが、同モデルに1期間加えると成立しなくなる、との由。


そのことをRoweは銀行預金をリンゴに喩えて説明している。

  • 前提:
    • 主体は事前に互いに等しい。
    • 各主体にはリンゴが賦与されている。
    • 投資技術(リンゴを地面に植えること)も存在し、それは満期では正のリターンをもたらすが、満期前に投資をキャンセルすると負のリターンをもたらす。
    • 各主体が我慢できなくなって(空腹感を覚えて)その期にリンゴを全部食べてしまいたいと思う確率が10%存在する。その確率は主体毎に独立で、かつ、主体の数が多いため、各期にちょうど10%の主体が我慢できなくなる。空腹感を覚えることは私的情報である。
  • 標準的なダイアモンド=ダイビックモデル:3期モデル
    1. 主体が銀行にリンゴを貸す
    2. 10%の主体が空腹感を覚え、リンゴの返還を要求する
    3. 投資が満期を迎える
    • 銀行は、空腹のリスクに対し、資産をプールすることにより保険を提供する。
      • 情報が私的であるため、通常の保険は機能しない。
  • 4期モデルにすると?
    1. 主体が銀行にリンゴを貸す
    2. 10%の主体が空腹感を覚え、リンゴの返還を要求する
    3. また別の10%の主体が空腹感を覚え、リンゴの返還を要求する
    4. 投資が満期を迎える
    • 銀行が満期前の投資キャンセルに決して応じず、20%のリンゴを返還に備えて取っておくものとする。
      • 良い均衡では、サンスポットが生じず、空腹感を覚えた主体だけがリンゴの返還を要求する。
      • サンスポットが生じて第2期に銀行取り付け騒ぎが生じたとすると、その期に空腹感を覚えていない主体も、空腹感を覚えたと偽って、取り付けに加わる。その理由は、第3期に空腹感を覚える可能性に備えるためである。もし銀行が払い戻しを停止してしまうと、将来の空腹を満たすことができなくなってしまうため、銀行から予備のリンゴがなくなる前に列に加わって、家でリンゴを保管しようとする。


Roweは、このことは無限期モデルを含め満期が2期以上のモデルについて当てはまる、と指摘した上で、次のように述べている。

Even if people are 100% confident that the bank is solvent, there can still be bank runs if people cannot predict their own future needs for liquidity, and fear that the bank might become illiquid in future. Having a deposit in an illiquid bank is functionally not the same as having a deposit in a liquid bank, even if both are solvent.
Even if deposit insurance guarantees that your deposit is safe, you might see a bank run if there is expected to be a delay in paying out that insurance. Liquid assets are more desirable than illiquid assets that pay the same rate of return.
(拙訳)
銀行が支払い能力を持っていると人々が100%確信していたとしても、彼らが自分の将来の流動性需要を予測できず、銀行が将来流動性を欠くかもしれないという懸念を持てば、銀行取り付けはやはり起きてしまう。流動性の乏しい銀行に預金を持つことは、たとえ同等の支払い能力を有していたしても、流動性のある銀行に預金を持つことと機能的に等しいわけではないのだ。
たとえ預金保険が預金は安全だと保証したとしても、その保険支払いが遅延すると予想されたならば、銀行取り付けは生じ得る。流動的な資産は、同じリターンをもたらす非流動的な資産よりも望ましい。