FRBのバランスシートの「正常化」を急がなくても良い理由

David Andolfattoが、米国政府債務の期間構造は社会的に最適な状態になっておらず、QEは統合政府の長期債務(=長期国債)を短期債務(=準備預金)に変換することによって最適な状態に近付けているのではないか、と主張している
その根拠としてAndolfattoは、長短金利差が(常にではないにせよ)概ね正であり、過去7年間にFRBが毎年800億ドル以上を政府に納付していたことを挙げている。


この主張は前エントリで打ち出されたものだが、それに対するLawrence White(ジョージ・メイソン大、ケイトー研究所)の批判に答えた今回のエントリでより明確化されている。各論点について、Andolfattoは以下のように論じている。

  • デュレーションリスクの問題
    • 短期金利の上昇により長期金利で借り入れた場合よりも結果的に高く付いてしまう、というデュレーションリスクは確かにある。しかしそれは、政府が国債を短期化しても同じこと。債務の期間構造の変更をQEでやるか国債の短期化でやるかは政治的には差があるかもしれないが、経済的には差はない。
      • ただし、Stephen Williamsonが指摘するように、FRB発行の短期債務である準備預金は対象が銀行に限られるので、流通等の面で短期国債に劣る、という問題はある。しかしWhiteはその問題は指摘していない。
  • 金利上昇時の資産のキャピタルロスと、それに伴う国庫納付金減少の可能性
    • 中央銀行の債務は貨幣なので、民間銀行と同様の形で債務不履行になることはない(政治的には問題視されるかもしれないが)。統合政府の経済という観点から考えれば、中銀の国庫納付金が減少することを恐れて利益機会を見過ごすのはナンセンス。
      • 政治的な問題視の結果、中銀の独立性が脅かされる可能性はある。しかしWhiteはその問題は指摘していない。
    • Whiteは、FRB保有モーゲージ担保証券(MBS)の危険性も過大視している。FRB保有MBSは、不動産市場が底を付けたかなり後に発行された証券のシニア・トランシェで、民間資産担保証券としては最も安全な部類に属する。
      • ただ、そもそもMBSFRB保有すべきではない、という考え方には一理あるかもしれない。Andolfatto自身も、むしろ財務省がそうした証券を裏付けに債券を発行して、安全資産不足の問題の緩和に資すべき、と考えている。
  • Whiteは「正常化」によって銀行の準備が稀少だった時代に戻るべし、と言うが、流動性を稀少化することの正当性の理由は何か?
    • ミルトン・フリードマンは、最適債務政策はすべての流動性プレミアムを削減する、と論じた。自分の知る限り、ほぼすべての経済モデルがこの考え方を支持している。歴史的な規準に従うべし、というのは経済学的な議論ではない。

Andoltfattoは最後に、とはいってもFRBは政府の負担を減らすためにQEを行うべきではなく、あくまでの自らの2つの任務(物価安定と雇用最大化)を行うために行うべきである、と述べている。ただそれが結果として政府の助けとなっているならば、慌ててバランスシートを縮小する必要は無いのでは、というのが彼の主張である。