準備預金のホットポテトが貸し出しを引き起こす

少し前にジェームズ・ハミルトンのECBのマイナス金利に関するエントリ邦訳)を読んだときに、これはまさにNick Roweの好きなホットポテト効果の準備預金版だな、と思った。ここでハミルトンは、準備預金の総量は変化しないので、銀行は準備預金を貸し出すわけではない、と述べている。

一方、最近のエントリRoweは、準備預金の総量が変化しないからこそ銀行は準備預金を貸し出すのだ、と述べている。

Let's cut to the goddamn chase: banks lend reserves.
And the fact that banks cannot in aggregate get rid of the excess reserves is a central part of the standard textbook story of why excess reserves raise the stock of money, which creates an excess supply of money, which raises the demand for goods and the prices of goods. If banks in aggregate could get rid of reserves by lending them, the excess reserves would have at most only a temporary effect.
(拙訳)
単刀直入に言おう:銀行は準備預金を貸し出すのだ。
銀行が総体としては超過準備を駆逐できないことこそが、超過準備が貨幣ストックを増加させ、それが貨幣の超過供給をもたらし、それが財への需要を増やし財の価格を引き上げる、という標準的な教科書の話の中心にある。もし銀行が貸し出すことによって総体として準備預金を駆逐できるならば、超過準備はせいぜい一時的な効果をもたらすに過ぎない。

この点を示すためにRoweは、銀行は準備預金を貸し出せないということを力説したS&P筆頭グローバル・エコノミストのポール・シェアードの論説を取り上げ、その文中の「銀行」を「人々」に、「貸し出す」を「支出する」に書き換えた文章を提示している。そしてその文章の無意味さを指摘した上で、次のように述べている。

The fact that people cannot in aggregate get rid of the excess money is a central part of the standard story of why excess money raises the demand for goods and the prices of goods. If they could get rid of it by spending it, the excess money would have at most only a temporary effect.
(拙訳)
人々が総体としては超過貨幣を駆逐できないことこそが、超過貨幣が財への需要を増やし財の価格を引き上げる、という標準的な話の中心にある。もし彼らが支出することによって総体として準備貨幣を駆逐できるならば、超過貨幣はせいぜい一時的な効果をもたらすに過ぎない。

この文章の「人々」を「銀行」に、「貨幣」を「準備」に、「支出する」を「貸し出す」に書き換えて若干加筆したのが、最初に引用した文章である。


なお、ここで言う超過準備についてRoweは、望ましい準備預金の水準からの超過分であり、法定準備からの超過分ではない、という点を強調している*1。このエントリの基となったDavid AndolfattoのブログエントリへのコメントでRoweは、法定準備からの超過という意味での超過準備は、現在は経済的な意味での超過準備になっていない、と述べている。


ちなみにAndolfattoは後続エントリで世代重複モデルを展開し、Roweの主張は基本的に正しい、と両エントリのコメントで指摘している、

*1:その点の強調は、ある意味小生がこちらのエントリの末尾で提示した疑問への回答になっている。