排出権オークション収入と減税の抱き合わせは是か非か?

昨日紹介したマンキューの主張について、アパラチアン州立大学教授のジョン・ホワイトヘッド(John Whitehead)がブログで異議を唱えているEconomist's View経由)*1


昨日のエントリから、ホワイトヘッドの批判の対象となっているマンキューの主張を引用すると、以下の通り。

経済的効率性の観点から言えば、炭素排出権の価格は、高いエネルギー価格という形で消費者にそのまま課せられるべきなんだ。消費者はその高価格に基づきエネルギー消費の最適値を決める一方、所得税や給与税の軽減によって補償を受ける。そしてその減税を賄うのは、排出権のオークションから上がった収益ということになる(本当は炭素税の方がいいんだけどね)。


これに対し、ホワイトヘッドは、そうした排出権オークション収入と減税の抱き合わせは完全に間違っている(The twinning [of cap-and-trade auction revenues and income tax cuts] is dead wrong)、として、次のように批判する。

A carbon tax or cap-and-trade increases efficiency. Both can raise revenue for the government. The government can do a number of things with the additional revenue but none of these things are required to make correcting negative externalities efficient.

(拙訳)
炭素税、もしくはキャップ・アンド・トレードは、効率性を高める。どちらも政府の収入を増加させる。政府はその追加収入でいろんなことができるが、その中に、負の外部性の効率性を正すためにやらなければならないことは一つとしてない。

The macroeconomic problem is that some taxes are too high, distorting economic activity. The macro problem should be decoupled from climate policy as soon as possible. Please?

(拙訳)
マクロ経済上の問題は、ある税金が高すぎて、経済活動を歪める、というものだ。そのマクロ問題は、温暖化対策とは直ちに切り離されなくてはならない。お願いしますよ?


彼はさらに、マンキューの教科書から、「排出権オークションの収益がゼロということはどれだけ問題か? 排出権を効率的に割り当てるという目的からすれば、問題にならない。(How much does [zero auction revenue] matter? For the purpose of efficiently allocating the carbon rights, it doesn’t.)」という文章を引いて、この文章についてはマンキューは正しい、とも書いている。


すると、驚いたことに、このエントリのコメント欄にマンキュー本人(多分)が降臨しマンキューブログ8/12エントリを嫁、として、該当エントリの抜粋を書き込んだ。
その8/12エントリの結論部は以下の通りである。

The basic problem is that a new tax on carbon-intensive products C1 is also an additional tax on consumption C, unless there is some other offsetting tax change.

A carbon tax without a compensating income tax cut makes one problem better and one worse. The question then is which problem is bigger. I don’t think there is a consensus among economists on this last question. That is why reasonable people can disagree about the bill being debated in Congress.

But there is a consensus, more or less, that we could fix one margin of adjustment without distorting the other margin more. That requires a cut in income or payroll taxes to be a key part of the environmental policy.
(拙訳)
基本的な問題は、製造に際し炭素を多く排出する製品C1への新たな税金は、どこか別のところの税金の変化で打ち消さない限り、消費C全体への追加の税金にもなってしまう、ということだ。
補償的な所得減税を伴わない炭素税は、一つの問題を改善するが、もう一つの問題を悪化させてしまう。となると、問われるのは、どちらの問題が大きいか、ということだ。この最後の問いに関し、経済学者の間でコンセンサスがあるとは思わない。それが、現在議会で討議されている法案について、理性的な人々の間で意見が分かれ得る理由だ。
しかし、片方の限界的調整を、もう片方の限界的調整をさらに歪めることなく改善することができる点については、コンセンサスが存在する。そうした改善のためには、所得もしくは給与税の減税を、環境政策の一つの重要な柱とする必要がある。

*1:ただし、彼が具体的に槍玉に上げたのはマンキューのブログエントリではなく、8/8NYT記事(とマンキューの教科書)。ちなみにこのホワイトヘッドのブログエントリのタイトルは「マンキューは本当に腹蔵なく主張しているのか?(Is Mankiw being completely above board?)」となっているが、これは、共同ブロガーのティム・ハーブ(Tim Haab)オハイオ州立大学教授が少し前に立てたエントリのタイトル「Is Krugman being completely above board?」を借用している。そちらのエントリでハーブは、クルーグマン9/27ブログエントリ(直近のフェルドシュタイン攻撃エントリ)を比較的好意的に評価しているが、ただし、排出権オークションの収益がクルーグマンの考えているように税体系の歪みを正すという保証はない、と釘を刺している。