昨日のエントリの冒頭で触れたジェームズ・ローマセットの10/1ブログエントリ*1だが、温暖化対策には二つの配当(double dividend)と一つの負の効果がある、と書いてる。
二つの配当とは、環境汚染によりもたらされる死荷重を減らすことと、炭素税収入により労働への課税を減らすことである。負の効果とは、炭素を多く排出する“汚い財(dirty good)”のコスト上昇が、労働への課税を悪化させるのと同様の効果になる点である(“税の相互作用効果[tax interaction effect]”と呼ばれる)。一般には最適な炭素税は限界費用より高いと思われているが、この負の効果が2番目の配当の効果を上回れば、実は低くなる、という。
これを昨日のデロングの図を使って考えると、以下のようなイメージになろうか。
炭素税が労働課税軽減に使われ、右下がりの必要財政収入線に沿って動く場合、労働課税が存在しない場合の最適点O点の真上のA点よりは、O点から必要財政収入線に降ろした垂線の足であるA’点の方がO点に近くなる。この場合、炭素税はO点よりむしろ高くなる。これが一般のイメージである。
一方、炭素税引き上げが、現状Sを通る右上がりの点線のように労働課税を悪化させるものとする。Oを中心とし、Oと現状Sとの距離を半径とする円を考えると、その円と直線との交点Cを超えて炭素税を高めた場合、Oとの距離はむしろSよりも遠くなってしまう。つまり、現状よりも状況が悪化することになる。図のケースでは、その時の炭素税はOよりも低い。また、右上がりの直線にO点から降ろした垂線の足C’は、常にO点の左側にくるので、負の効果が還元効果を上回る時の最適な炭素税は、必ずO点より低くなる。
なお、ローマセットは、同じエントリで、炭素税とキャップ・アンド・トレードを巡るここまでの議論のまとめとして、以下の4点を挙げている。
- キャップ・アンド・トレードにおいては、排出権を(オークションで売却するのではなく)無償配布してしまう誘惑が常に存在するが、その場合、収益を消費者に還元するルートが閉ざされてしまう。その点では炭素税の方が優れている。
- 排出の限界効用にのみ不確実性が存在する場合、炭素税の方が優れている。というのは、限界効用の傾きは限界費用より大きいからである。
- キャップ・アンド・トレードの主な利点は、無償配布する比率を政治の場で決定できる点にある(炭素税でも理論的には同等のことが可能だが*2、実現はほぼ不可能)。しかし、不幸なことに、政治の役割が、そうした比率の決定に留まることはまずない。レントシーキングにより、消費者団体も含めてあちこちに分け前がばらまかれる結果になる。また、ロビー活動により、潜在的なレントが少なくとも部分的に散逸してしまう。
- 限界効用と限界費用の双方の不確実性を考えた場合、炭素税とキャップ・アンド・トレードのハイブリッド型が最も優れている。しかし、この点に関する研究はまだ不十分。
ちなみに、ここで出てくる不確実性云々という話については、同じローマセットの9/28エントリでより詳しく説明されている。それによると
- 不確実性が存在しない場合、炭素税とキャップ・アンド・トレードは完全に等価になる。