9/29エントリでEnvironmental Economicsというブログにおけるマンキューへの批判を紹介した。そのブログの10/1エントリでは、ゲストブロガーのジェームズ・ローマセット(James Roumasset)ハワイ大学マノア校教授が、引き続きマンキューの見解について考察を行なっている。
そこでローマセットは、デロングの8/14ブログエントリに言及しているが、デロングがその中でマンキューの考えを理解するために行なった図解が面白いので、以下に紹介する。
下図は、デロングの手書きの図をはてなお絵かきで描き直したものである。
ここで縦軸は労働への税金、横軸は炭素税である。
- 政府の無い世界では、横軸上のO点が、温暖化の負の外部性を是正する上での最適な炭素税となる。
- しかし、現実には政府は必要。その政府を維持するための必要財政収入線(required revenue line)が図の赤線。この線はS点で縦軸と交わるが、これが(炭素税の導入されていない)現状となる。炭素税の収入が増えればそれに応じて労働への課税を減らせるので、この線は右下がりとなる。
- 必要な財政収入を維持しつつ最適な炭素税を実現するのがA点。炭素税方式でなくても、キャップ・アンド・トレードを排出権のオークションで行なえば、それが実現できる。
- だが、もしキャップ・アンド・トレードで排出権を無償配布してしまえば、労働への課税を軽減できず、B点のようにS点の真横の状態に来てしまう。
- …いや、B点になればまだ良い方で、そもそも炭素税は、物価上昇という形で労働への課税と同等の効果も発揮してしまうことを考慮すると、C点のように右上に来てしまうだろう。
この最後の論点がマンキューの懸念で、従って排出権を無償配布するのに等しいワックスマン・マーキー法には反対、という立場を8/9NYT論説で示した。
それに対しデロングは、以下の疑問を呈している。
- C点が、現状のS点よりも、理想とするO点から遠ざかるためには、直線SCと直線SOのなす角度が90度以上にならなくてはならない。そこまで炭素税が労働に悪影響をもらたすという証拠をマンキューは提示していない*1。
- (次のエントリ)ロバート・スタビンズ(Economist's View経由)によると、ワックスマン・マーキー法は、一般に思われているような単なる無償配布ではなく、消費者=労働者への還元がかなりなされている*2。
*1:本ブログの9/29エントリで紹介したように、マンキューは8/12の自ブログエントリで
「補償的な所得減税を伴わない炭素税は、一つの問題を改善するが、もう一つの問題を悪化させてしまう。となると、問われるのは、どちらの問題が大きいか、ということだ。この最後の問いに関し、経済学者の間でコンセンサスがあるとは思わない。それが、現在議会で討議されている法案について、理性的な人々の間で意見が分かれ得る理由だ。」
と述べており、デロングの指摘する通り、確かに証拠を提示できていない。
*2:これは、本ブログの9/28エントリで紹介したクルーグマンのフェルドシュタイン批判のポイントであり、以前紹介したCBOの計算の一つのポイントである。