法人税負担:一般均衡推定と分析の概観

クルーグマンが、法人税の負担に関する問題を整理した最良の論文として、CBOのJennifer C. Gravelleの2010年の表題の論文(原題は「Corporate Tax Incidence: Review of General Equilibrium Estimates and Analysis」)にリンクしている。同論文では、開放経済における税負担を決める要因として、以下の5つを挙げている(最初の3つは開放経済固有の要因、残りの2つは閉鎖経済と共通の要因)。

  1. 国際的な資本の移動可能性
    • もし国境を越えた資本の移動可能性が存在するならば(完全なポートフォリオ代替性が存在するならば)、法人税は国内企業部門の資本の収益率を引き下げ、資本を海外に追いやる。国内の資本ストックが低下すると、国内に残った資本の限界生産物は上昇し、その上昇は税引き後収益が税導入前の収益と同じになるまで続く。移動できない労働は税の大きな割合を負担する。それは、資本の収益が上昇すると、資本に比べた労働への相対的な需要が減少し、賃金が下がるためである。
    • 国際的な資本の移動可能性が低いほど、負担の労働へのシフトは小さくなる。
  2. 国際的な製品の代替性
    • もし国内と海外の製品が完全に代替的でなければ、国内財への需要の弾力性は低くなる。その場合に国内企業部門に税が課されると、国内財への需要は、完全に代替的な場合ほどは減少しない。国内の買い手は、国内製品を海外製品で置き換えようとはそれほど思わないためである。
    • 製品の代替性が完全でないと、課税対象部門が資本を海外に移す能力は減じる。また海外市場は、自分たちの製品への需要が増加するわけではないため、余剰な資本を吸収しようとは思わない。
    • こうした製品の硬直性は、経済を実質的に閉鎖経済に近付ける。
  3. 国の規模
    • 国の規模は、世界的な要素価格への影響力を決める。国際的な資本の移動可能性と製品の代替性が完全な一財モデルにおいて、国の規模の前提が異なる場合を考えてみよう。
      • 国が小さいと、世界的な収益と価格は固定されているが、要素支払いは蕩尽的であるため、資本所得に課された税の全額だけ労働所得は低下する。即ち、労働所得が税を100%負担する。
      • 一方、国が世界的な価格に影響力を持つほど大きいと、課税後に資本は海外に流出し、世界市場で資本が増加することにより資本の世界的な収益率が低下する。課税国の国内資本が低下して資本の限界生産物が世界的収益率と同じになるまで上昇するとしても、その世界的収益率は低下する。
    • 国際的な資本の移動可能性と製品の代替性が完全な場合の資本の税負担は、国の生産の世界におけるシェアと同じになる。
  4. 要素代替性
    • 企業が労働を資本に置き換えるのが難しいほど、労働の税負担は大きくなる。労働が資本に強く結び付いていると(即ち、両者が簡単に代替できないと)、資本への需要が減少すると労働への需要も減少し、賃金が低下する。
    • 例えば閉鎖経済で、資本への需要が減少して課税対象部門が余剰資本を削減したいと考えた場合、そうした部門や他の部門が資本の代わりに労働をもっと受け入れようと思わなければ、資本と比べた労働への相対的な需要は減少し、賃金が抑えられる。
    • 開放経済で課税により資本が海外に流出すると、労働が資本の代替とならなければ、失われた資本の価値が上昇し、今や余剰となった労働への需要は減少する。そのため賃金は低下し、資本の収益率は上昇する。結果として、移動可能でなく代替可能でもない要素であることにより、労働の税負担が大きくなる。
  5. 要素集約度
    • 要素集約度は、税の相対的な規模と税基盤を決定することにより、法人税負担の大きさに影響する。
    • 企業部門の大きさに関係なく、資本集約的な課税対象部門の労働の税負担比率は、労働集約的な課税対象部門の同比率よりも高くなる。それは、価格上昇を避けるため、企業はまず賃下げで税を吸収するからである。資本集約的ならば、賃下げで吸収すべき税の大きさに比べて労働所得の基盤が相対的に小さいため、賃下げ幅が相対的に大きくなる。
    • 労働市場が競争的ならば、そうした大幅な賃下げは他部門すべての労働に波及する。従って、課税対象部門が資本集約的であるほど、労働の税負担は大きくなる。

ちなみにクルーグマンは2番目の製品の代替性の影響を説明するために、仮想的な火星経済の存在を思考実験として提示している。