2009-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ユンカーの誤謬

Nick Roweが、WCIブログで、ユンカーの誤謬というものを紹介すると同時に、その誤謬も実は正しい場合があるのかもしれない、という興味深いエントリを書いていた。 ユンカーというのはプロイセン時代の地主貴族のことである(cf. Wikipedia)。ユンカーの誤…

タレブ「新政権はオバマの経済政策を真似てはいけない」

タレブが政権交代により次期首相になるかもしれない人に公開書簡を送った。ただし、日本の話ではなく、英国保守党のデビッド・キャメロン党首への書簡(ワシントンブログ経由)*1。以下はその拙訳。 親愛なるデビッド(そう呼ばせて頂けるならば)、 貴方と…

地震学と経済学

8/6エントリのコメント欄で、小生は経済危機を地震に喩えたが、期せずして同様の比喩を用いたエントリをMark Thomaが書いている。彼の論旨は以下の通り。 地震予知には多大の努力が払われたが、未だ成功していない。事後的なデータ解析では予兆があったこと…

十六の夏

正確には十七の夏ですな。 クルーグマンが「Sour sixteen」というタイトルのブログエントリで取り上げたが、リチャード・ポズナーがクリスティーナ・ローマー批判の際に犯した凡ミスがちょっとした祭りになったらしい*1。 ポズナーの記事の問題の箇所は以下…

ルービニ「二番底のリスクが高まっている」

昨日紹介したモハメド・エラリアンの論説では、FRBの出口戦略の難しさを表現するに当たってルービニ記事にリンクしていた。今日はそのルービニのFT記事の内容を簡単に紹介する。 2008年第4四半期〜2009年第1四半期の先進各国の経済の落ち込みは、大恐慌の初…

バーナンキがなすべき4つのこと

バーナンキFRB議長再任決定を受けて、ピムコのCEOモハメド・エラリアン(Mohamed El-Erian)が「Bernanke’s four point ‘to-do’ list」という記事を書いた。 彼の言うバーナンキがなすべき4つのこととは以下の通り。 出口戦略の舵取り 前例の無い金融政策を…

ビル・ミッチェル「財政赤字は金利に下落圧力をかける」

昨日は、豪州の経済学者ビル・ミッチェルの考えを、クルーグマンのベビーシッター協同組合のエピソードに関するエントリを元に紹介した。それについて、彼は「財政派」というよりは“リフレ派の言うところの「統合政府政策派」”なのではないか、というコメン…

「経済を子守りしてみると。」再訪

クルーグマンのベビーシッター協同組合のエピソードを、およそ正反対の立場の経済学者がほぼ同時に取り上げた*1。 一人はEconlogのデビッド・ヘンダーソン。リバタリアンという立場から予想される通り、内容はクルーグマン批判で、協同組合が「不況」に陥っ…

経済の魔女狩り

少し前に、カバレロがFTのThe Economists' Forumに「Economic witch-hunting」と題した記事を寄せていた(Economist's View経由)。 内容は、本ブログで以前ここやここで紹介した彼の考えの繰り返しという感もあるが、今回の危機の原因に関する彼の考えがよ…

米国民は耐久消費財をもう買わない?

レベッカ・ワイルダーが、米国の消費における耐久消費財の役割の低下について興味深い2枚のグラフを示している。 一つは、消費の主役が消費財からサービス財に交代したことを示す長期時系列のグラフで、それを見ると、1940年代には消費の6割以上を占めていた…

コント:ポール君とグレッグ君(2009年第11弾)

今回は小ネタを2つまとめて紹介。 言葉だけ ポール君 ロバート・サミュエルソンとグレッグ君は2人とも、我々は力強く行動すべきだ、と訴えている。訴えの対象は、サミュエルソンは医療費高騰について、グレッグ君は石油消費に税金を掛ける「ピグー・クラブ」…

チアリーダー、もとい、リーマンを救えば世界が救われていたか?

リーマンを救済していれば経済はこんなことにはなっていなかった、という見解に対し、ロゴフが反論している(Economist's View経由)*1 *2。 The overwhelming consensus in the policy community is that if only the government had bailed out Lehman, th…

名目GDPと失業率

ラスカルさんのこのエントリを大変興味深く読んだ。そこでは、デフレの判断においてGDPデフレータと国内需要デフレータのどちらが適切か、について論じられている。ラスカルさんによれば、国内需要デフレータの方が、GDPデフレータよりも、GDPギャップないし…

米国のスモールビジネス部門は意外に小さい?

ディーン・ベーカー率いるCEPRが、小企業部門の雇用を国際比較したレポートを発表した(Economist's View経由)。 そこでは、まず、OECD統計の2007年時点の各国の自営業者比率が示されており、米国の同比率が、小企業が多い国というセルフイメージに反し、他…

所得の不平等とIQの遺伝

今月の初め、親の所得と学力の関係を初めて認めた文部科学省の調査が話題になった。 一方、その少し前に、デロングが蔵出しエントリを立てて、所得の不平等は確かに親から子に引き継がれる要素が大きいが、それにはIQの遺伝は僅かしか関与しないことを強調し…

マシンソーシング?

8/4エントリでは、名無しさんから、技術進歩の逆説に関する2つの興味深いサイトを教えていただいた。一つは、サービス業の生産性上昇が技術集約産業のそれに比べてどうしても遅れを取ることから、その商品の相対価格が経時的に上昇していくという「ボーモル…

女王陛下の経済学者:補足

一昨日のエントリでは、エリザベス女王の質問(どうして誰も信用収縮の到来に気付かなかったのか)に対する英国学士院からの回答を紹介した。 この公開書簡を取り上げたEconomist's Viewでは、FTの関連記事を2つ紹介している。 一つはFT自身の論説記事で、そ…

景気対策と戦争との違い

岩本康志氏が政府債務の対GDP比の長期グラフをもとに、近年の景気対策を戦争になぞらえるエントリを書いた(池田信夫氏も引用している)。 そこではデータソースも言及されているので、取りあえずインターネットで入手できるものを小生も掻き集め、同様のグ…

女王陛下の経済学者

英国の経済学者からエリザベス女王への公開書簡(Economist's View経由)が話題を呼んでいるので、以下に訳してみる。 2009年7月22日女王陛下、昨年11月に陛下がロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)をお訪ねになった時、もっともなご質問をされま…

フェルドシュタインは道化か?それとも信念の人か?

昨日紹介したEconomics of Contemptブログエントリでは、ベアのほかに、フェルドシュタインも槍玉に上げられていた。 Harvard economist Martin Feldstein, in his capacity as an AIG board member, actually opposed accepting a Fed rescue. According to…

シーラ・ベアは英雄か?それとも厄介者か?

Economist's Viewの8/5エントリで、「In FED We Trust: Ben Bernanke's War on the Great Panic [ラフカット]」という本の感想が紹介されていた*1。元はEconomics of Contemptブログエントリで、そこでは本からの抜き書きに簡単なコメントが添えられたものが…

効率的市場仮説は死んだのか?

今回の経済危機によって効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis=EMH)が無効になったかどうかが問われている。以下に、目についた論説をもとに、EMH無効派と有効派に論者を色分けしてみる。 <「EMHは死んだ」派> クルーグマン ジャスティン・フォッ…

レイヨンフーブットの経済危機論

アクセル・レイヨンフーブットが少し前にVoxで危機について書いていたので、以下にその内容をまとめてみる。 現在の経済危機は以下の3つの問題を浮き彫りにした: 物価水準の不安定性 金融システム全般のレバレッジの不安定性 中央銀行の責任の境界が曖昧化…

今度の騰貴は投機?

平家さんが原油価格が今年1月から6月にかけて5割も値上がりしていることを「少しきな臭い原油市場」というエントリで指摘している。 それでも前年同期に比べれば半分の水準ではあるが、昨年の原油価格高騰については投機が原因ではない、という論陣を張った…

生まれながらの売りポジションと買いポジション

フェリックス・サーモンが住宅の購入について面白い比喩を使った。 In that sense buying a house isn’t an investment, so much as it’s a way of permanently covering your built-in short position when it comes to the shelter market. (拙訳) その…

経済学に予測を求めてはいけない?

Stumbling and Mumblingというブログを書いているクリス・ディロー(Chris Dillow)が、今回の危機は別に現在の経済学に根本的な影響を与えるものではない、と述べている(Economist's View経由)。 彼に言わせれば、そもそも経済学は予測には使えないことは…

コント:ポール君とグレッグ君(2009年第10弾)

今回も比較的穏やかなやり取り。 ポール君 医療保険問題の本質とは極めて単純なものだ。保険者が健康な被保険者だけを囲い込んでうまく補助金をせしめることがないように規制し、米国民が皆保険に入れるようにすることだ。他のすべてのことは、その本質がう…

賃金分布と最低賃金

7/31の最低賃金に関するエントリを大竹文雄氏にTBしたが、本日、それへの応答とも読める大竹氏のエントリがあった。 7/31エントリで小生は、最低賃金引き上げ率がそれによる失業率上昇を上回るならば、最低賃金労働者にとってメリットになるのではないか、と…

夏だから、サマーズ

本石町日記さんのところでも取り上げられていたが、FRB議長人事を巡ってWillem Buiterがサマーズを叩いたのに対し、クルーグマンがサマーズ擁護の論陣を張った。 このBuiterのブログエントリは、Economics of Contemptというブログでも取り上げられ、Buiter…

アロー「不確実性と医療の厚生経済学」

少し前にThe Atlanticのサミュエルソンのインタビューを紹介したが、同じ記者(コナー・クラーク[Conor Clarke])が、今度はアローをインタビューした*1。インタビューは3部構成になっており、パート2では、旬の医療問題が扱われている。ここでのアローの…