アクセル・レイヨンフーブットが少し前にVoxで危機について書いていたので、以下にその内容をまとめてみる。
- 現在の経済危機は以下の3つの問題を浮き彫りにした:
- マクロ経済学はこれらの問題に重要な洞察を与えることができる。ただしそのためには、経済モデルにおいて均衡への回帰を保証する自由競争市場とネガティブ・フィードバック・ループの前提を捨てる必要がある。
- 従来モデルでは説明できなかった例:
- 価格水準の問題:
ドットコム・バブルの崩壊の後、物価水準からは、FRBが低金利を長く留め置きすぎたという証拠は見られなかった。弱い通貨の国からの輸入が経済回復時の消費者物価水準を安定化させ、政策当局者に金利は「正しい」水準にあると信じ込ませた。 - レバレッジの問題:
債務のレバレッジは修正されることなく何年も拡大し続けた。レバレッジ拡大が資産価格上昇と市場参加者の帳簿上の利益につながった上に、金融機関と金融アナリスト、そして監督当局のインセンティブ構造がその動きを補強する方向に働いたためである。実際、近年の景気循環で、必要自己資本は、マクロ経済的には増幅器として働いた。好況期の資産価格上昇はバランスシート拡大の余地を与えた一方、続く不況期においては必要自己資本がデレバレッジをより一層必須のものとした。 - 金融機関同士のネットワークの例:
ここではお馴染みの合成の誤謬が働いた。個々の金融機関は分散投資を行なったのだが、それが皆似たような分散だったため、システミック・リスクが質的に変化した。つまりマクロ的には、すべての卵が一つのバスケットに入れられていたのである。その結果、現在、我々の手元には巨大オムレツが残された*1。
金融機関同士のネットワークの緊密化により、ある場所での問題が全体に波及しやすくなったことも、この問題の生成に寄与した(他には、各主体のレバレッジ水準、経済における「有毒」資産の量と分布、ネットワークにおいて倒壊が許されない結節点(ノード)の存在、といったものも、そうした波及のしやすさに影響する)。
- 価格水準の問題:
- こうしたシステミックな問題には、明確で簡単で議論の余地の少ない解決法は存在しない。以下は各問題への解決策の提案:
- 物価水準:
インフレ目標政策のそもそもの困難さに加え、数年以内に訪れるであろう深刻なインフレ圧力は、銀行金利だけでは金融政策のツールとして弱すぎることを改めて示すだろう。公開市場操作を金融政策のツールとして再び効果あらしめるため、必要準備預金を再度課すべきである。ただし、その際、以下の2点において拡張するべき。- 要求払い債務を発行する非銀行の金融機関もカバーする。
- レポ取引や手形のような、預金でない短期の債務も対象に含める。
- レバレッジ:
金融当局は、資産価格が消費財価格のトレンドを超えて上昇する場合には必要自己資本を増やし、金融機関のデレバレッジが進んでいる局面では思い切ってそれを減らすべきである。景気循環を均したレバレッジ水準の平均は、近年のピーク時の大手金融機関の水準の半分以下に留まるようにすべき。
レバレッジに上限を設けることは、収益率に上限を設けることに等しいので、金融業界は反対するだろう。また、この提案は必要自己資本を金融政策のツールに組み込むことを意味するため、金融当局にとっては裁量権の拡大、銀行にとっては新たな種類のリスクの導入となる。しかし、こうした反景気循環的な自己資本要求は、将来のTARP*2の必要性を減じるので、政策の望ましい選択肢として検討の余地はある。
- 将来の金融システム設計:
グラス=スティーガル法の時代に時計を逆戻りさせるのは現実的ではないし、望ましくもないだろう。それよりは、「中心」と「周縁」の2種類の金融機関を区別する規制システムの確立を検討すべき*3。中心の金融機関は、準備預金と自己資本に厳格な規制を課せられ、監督も厳格である代わりに、中央銀行の最後の貸し手機能によって支えられる資格を持つ。周縁の金融機関は、規制監督がより緩やかである代わりに、中央銀行の保護の傘の外に置かれる。また、こうした中央銀行の責任範囲の明確化のため、中心の金融機関は、周縁の金融機関に許される高リスクの活動から遠ざけられることになろう。
この提案では、巨大かつ国際的な金融コングロマリットをどうするかが課題になるが、分割するか、厳格な規制下に置くかのいずれかしかない。いずれの場合も、彼らは反対するだろうし、そのための政治的な資源も有している。取りあえずこの中心−周縁の方向に行くステップとして、近年の教訓を参考に、以下のような手段が考えられる。
- 物価水準: