欧州の銀行は皆が思っているより遥かに危険な状態にある

とアイケングリーンがシュピーゲルのインタビューで述べているMarginal RevolutionEconomist's View経由)。
インタビューの概要は以下の通り。

  • (欧州の共通通貨圏について長年研究した結果、加盟国がユーロ圏を離脱するのは技術的には可能だが、政治的には隕石がフランクフルトのユーロタワーに衝突するくらいの可能性しかない、という結論に達したとのことだが、今もその見解は変わっていないのか、という質問に対し)その見解は変わっていないが、ただし条件が一つある。その条件とは、ギリシャアイルランドの危機への対処に際し、それらの国の過大評価された債務を維持するために、さらに債務を積み増しさせるような真似はやめるべき、ということだ。
  • 独仏が望んでいるのは基本的に自国の銀行が破綻しないことだけだが、現在の救済策はその点で意味をなさない。ギリシャの債務再編はもはや不可避、ということに人々も気付き始めている。それは必然的に銀行も巻き込む。この問題の解決法は一つしか無い。銀行を強化することだ!
    • ギリシャは分不相応に発展させた経済が問題だったが、アイルランドとスペインの問題は銀行。ユーロ危機はまず第一に銀行危機なのだ。
  • ドイツのメルケル首相にとって、ギリシャに何十億もまた注ぎ込むことよりは、自国の銀行を救うことを納税者に納得させる方がまだ容易だろう。特に、ギリシャの債務削減と銀行強化策によって危機を封じ込め、スペインに広がることを防げるのであれば。
  • 欧州の銀行は人々が認識しているよりも遥かに危険な状態にある。昨年のストレステストにあまり意味が無かったことは、今や多くの人も理解している。あのテストは形ばかりのジェスチャーで、現実的なシナリオを欠いており、銀行が直面し得る流動性リスクを完全に無視していた。
  • 今回は規制当局にはそのような逃げは許されない。個人的には、規制される側からの圧力に弱い各国の規制当局よりは、欧州委員会が責任を持ってストレステストを実施する方が安心できる。
  • ざっとした見積りでは、独仏の銀行の資本強化のコストは、両国のGDPの3%(約1800億ユーロ)に達するだろう。
  • 個人的に最も懸念しているのは、欧州がまた、ギリシャアイルランドの返済金利を下げるといった中途半端な妥協策を採るのではないか、ということ。それは間違った政策とは言い切れないが、ユーロ救済のために必要とされる政策には到底及ばない。その結果、欧州はまた数ヶ月を空費することになるだろう。
  • (3月の欧州サミットでは、単位労働コストや定年を揃えることを目指す、といった経済政策の協調も図られるようだが、それについてどう思うか、という質問に対し)そうした緊密な協調には意味がある。各国の経済状況は連動しないが、それに対しそれぞれの国は独立した金融政策で対処することはできない。そうなると財政政策に頼ることになるが、それは他のユーロ圏の国に影響を及ぼす。従って、各国間のある程度の協調が必要となる。
  • (危機にも関わらず、ユーロ圏の経済のファンダメンタルズは米国よりもまだ健全なのに、なぜ債券トレーダーは米国ではなく欧州の方を気にするのか、という質問に対し)ウォール街の債権トレーダーの心理は分からないが、じきに彼らも米国に対して不信感を抱くようになるのではないか。歴史的に見ると、金融危機は選挙が近づいた時期に常に発生する。米国は2012年に重要な選挙を控えており、それまでに債務問題にきちんとした取り組みがなされるとは考えにくい。そうなると、我々は深刻な問題に直面することになる。
  • (米国の債務はGDPの90%で、欧州の平均よりやや上、という水準だが、というインタビュアーの指摘に対し)連邦政府の税収を考慮すると両者の差は大きい。欧州では税収はGDPの40%に達するが、米国では19%に過ぎない。従って、増税無しに財政を均衡させて元利を返済することは不可能。だが米国では増税はタブーなので、いずれ投資家の信頼を失うことになるだろう。
  • オバマ政権が2012年までの延長を決めたブッシュ政権の)減税による景気刺激策は効果が乏しい。というのは、それは財政赤字を拡大させる半面、減税の恩恵を受けた富裕層はそれを貯蓄に回してしまうからだ。
  • 政府は、取りあえず9%に達した失業率を下げるためだけにでも、何らかの景気刺激策を採らないわけにはいかない。だが同じくらい重要なことは、中期的にどのように債務問題に取り組むかについてのオバマ政権と議会からの明確な声明だ。しかし、彼らはそうした声明を出す代わりに、その問題を、よりによって2012年まで先延ばししてしまった。選挙の年にそうした問題の解決策を話し合えるわけが無い。
  • カリフォルニアで付加税の延長に関する住民投票が行われる予定だが、それが今後の米国の債務問題の行方を占う上での一つの試金石となるだろう。カリフォルニアの動きは全国の動向の先駆けになる、と我々カリフォルニア住民は信じている。サーフィンがそうだったし、願わくは債務からの脱出においてもそうありたい。
  • (ECBとFRB国債を買っているのは良いことか、という質問に対し)政治家が失敗している状況では、中央銀行がどんどん前に乗り出さざるを得ない。不況から脱出するためには、政府は税金を下げるか投資を行う必要があるのだが、政治が行き詰まれば、中銀は金融政策で対処せざるを得ない。その結果が量的緩和だ。今回のような深刻な危機では、突然、中銀だけが何かをできる存在になってしまう。だが、それは政治の欠点を浮き彫りにすると同時に、問題も引き起こす。というのは、中銀が本来の責任範囲を超えたことをやり始めることになるからだ。
  • グリーンスパンFRB議長は金融緩和と規制緩和金融危機の素地を整え、後任のバーナンキは市場を貨幣で溢れさせているが、最近のFRBの信頼性をどう思うか、という質問に対し)過去10年間のFRBの成績は、控えめに言ってもつぎはぎだらけだった。危機前には規制当局者として完全に失敗していた。リスクを予見できなかったのだ。しかし、危機に対処するという点では、正しい選択を行い、熱心に政策を実行している。
  • 米国債の海外保有分の20%を占めている中国が、それを政治目的に使うことがあるか、という質問に対し)そうしたことをしようとすれば、中国にとって高くつくことになる。中国が米国債を売却しようとすると、価格が下落し、自らが多額の損失を蒙ることになる。中国がそこまでやるような政治的紛争は、かなり深刻なものだろう。彼らが大量の米国債を売却することがあるとすれば、むしろ、米国が債務に歯止めを掛けられなくなる事態を恐れて、という現世的な理由によることになるのではないか。
  • (国際準備通貨としてのドルの寿命は長くない、というアイケングリーンの予言は米国民を非常に驚かせたが、ドルに取って代わるのはユーロと元のどちらか、という質問に対し)それはどの程度の将来を予測するかによる。元がドルの代わりの選択肢として中銀や投資家にとって魅力的なものとなるほど国際化するまでには、あと10年掛かるだろう。ユーロもドルの真の競争相手となるまでには幾つかの大きな課題を克服する必要があるが、中国よりは早くそれに成功するのではないか。その点で私は楽観的で、5年でその準備が整うと見ている。


債務者への追い貸しや金利減免の画策と、それによる根本的な銀行問題の解決の先延ばし、という上記のユーロ危機に関するアイケングリーンの話を読んでいると、一瞬、90年代の日本について語っているのかと錯覚しそうになる。それだけ金融危機においてはありふれたパターンなのだろう。
また、米国の債務問題についても政府に対して厳しい見方をしているのも目立つ。その半面、中銀の役割を(FRBの危機への対処は評価しているものの)かなり限定的に考えているようでもある。その点でいわゆるリフレ策には与しない立場と言えるだろう。