大恐慌時の金本位制と現在のユーロとの違い

についてアイケングリーンがProject Syndicateに書いているEconomist's View経由)。以下は彼の挙げる当時と現在の相違点で、これらの違いによりユーロは金本位制と同じ運命を辿らずに存続できるかもしれない、と彼は言う。

  1. 単一の中央銀行
    • 考え方の異なる中央銀行が足並みを揃えて金融政策を実施するのは言うは易し、行うは難し。一方、ECBはその気になればユーロ圏全体をリフレートできる。問題はその意思があるかどうかだが…。
  2. 失業保険の充実
    • 最近の社会保障制度の削減にも関わらず、現在の失業給付は当時よりも多い。そのため、ユーロを放棄せよというポピュリスト的な圧力も当時より弱い。
  3. 政治環境の良好化
    • 当時はドイツの再軍備に対するフランスの不信があり、中欧金融危機の対処への協力をフランスは拒否した。オランド大統領就任後に独仏関係が緊張するとしても、当時の緊張関係はその比ではない。
    • また、欧州各国は単一市場を失うことを恐れ、ユーロ存続に努力している。1931年に各国が金本位制を離脱した際は既に関税障壁が構築されており、守るべき単一市場はもはや存在しなかった。
  4. ユーロ放棄のコスト*1
    • 金本位制の放棄はユーロ放棄ほどの混乱を招かずに済んだ。当時は各国通貨はそのままだったので、例えば英国は週末に市場が閉じている時に金本位制から離脱できた。今日は資産や負債がすべてユーロ建てになっているので、そうはいかない。


しかしその一方でアイケングリーンは、当時と現在のもう一つの違いを挙げている。それは、当時は各国の大恐慌の原因への考察と対処法がバラバラだったのに対し、現在は対処法に関して意思統一が出来ている点である。ただ、残念ながら、その合意が取れた対処法――緊縮策――は患者を殺しつつある。そのため、この5番目の違いは、上記の4つの違いと異なり、むしろユーロ解体の方向に働いている、というのがアイケングリーンの見立てである。

*1:cf. ここ