3/3エントリでは、その前日付けのロドリックのブログエントリの内容を紹介した。それは最近の彼の共著論文の主旨を要約したものだったが、少し前の2/25付けのエントリでロドリックは、同論文の副産物とでも言うべき発見をまとめている。
その発見は以下の図に集約される。
横軸は経済全体の生産性、縦軸は農業の相対的生産性である(ここで生産性は労働生産性を指している)。
経済が発展するに連れ、農業の相対的生産性は、一旦低下するが、その後また上昇する、というU字曲線を描く*1。
この傾向は、ある国のデータを時系列で追うことによっても確認できる。下図は、インド、ペルー、フランスの時系列データをつなげたものである。
3ヶ国の中で最も貧しいインドは、全体の生産性が増すに連れ、農業の相対的生産性は一貫して低下した。一方、3ヶ国の中で最も豊かなフランスでは、農業の生産性が、経済の他分野の生産性に追いつきつつある。富裕度で両国の中間に位置するペルーでは、農業の相対的生産性がU字曲線の最小値の近辺で推移している。
この結果を、ロドリックは、経済発展の過程で以下の2つの重要な力学が働いているため、と説明している。
- 経済発展が生じるためには、生産性が高い経済活動が新たに勃興する必要がある。そうした活動は普通は農業以外の分野で起こるので、その活動が経済全体を押し上げるに連れ、農業は相対的な生産性という面で遅れを取ることになる。
- 経済が豊かになるに連れ、労働力は生産性の低い分野から高い分野に移行する傾向がある。そのため、農業と非農業の生産性ギャップが縮小する(収穫逓減原理を想起せよ)。ある時点で、この第二の力学が第一の力学を上回り、曲線は上向きに転じる。
この話からロドリックは、論文の主題に関わる教訓を引き出している:
- 経済発展は、次の2つを必要とする:
- 新規の経済活動(経済活動の多様化)
- 従来の経済活動から新規の経済活動への資源の継続的な移転
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- 従って、まったく新規の産業を育成できない国は、成長できない。
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- また、新規の産業を育成したとしても、それが鉱業などの天然資源ベースの産業に留まり、労働力を十分に吸収できるほどの拡張性に欠ける場合は、所得水準で見て中途半端なところで成長は止まってしまう。
- 真に成功する国は、この2つの課題をうまくクリアした国である。