トルコ出身の経済学者が見たトルコ反政府活動

トルコで続く反政府抗議活動について、Mostly Economicsがトルコ出身の3人の経済学者の意見にリンクしている


一人はダニ・ロドリックで、「トルコでの抗議活動は力強いメッセージを送っているが、民主主義はもたらさないだろう(Turkey’s Protests Send a Strong Message, But Will Not Bring Democracy)」と題されたブログエントリで、FT寄稿記事を再掲している。同記事では、現在の抗議活動を代表する組織の不在を指摘し、結局はエルドアン政権側とギュレン・ムーブメント*1の駆け引きにクルド人勢力が絡む形で今後のトルコの政治が決定されていくのではないか、という観測を示している。
それによると、政権側とギュレン側は最近まで軍隊と世俗主義者という共通の敵がいたため手を組んでいたが、その目的は達成されたため、両者の反目が高まっている、との由。ギュレン側はエルドアンの権力の強大化を警戒し、エルドアン側はギュレン勢力の警察や司法への浸透を警戒しているという。なお、ギュレン勢力が警察・司法に浸透しているということは、彼らが政権側の警察・司法における最悪の不正行為に手を貸していたというパラドックスを示唆している、ともロドリックは指摘している。
またロドリックは、トルコの近年の経済発展や軍隊の掌握やクルド側との和平の功績をエルドアン政権に帰する西側の大勢の見方に異を唱え、以下の3点を指摘している。

  1. 経済面では、良く言って政権側は大きなミスを犯さなかった、というところ。成長は維持不可能な外部からの借り入れによって支えられたものであり、また、新興国の標準から言ってずば抜けたものとは言えなかった。公共工事ではクローニズムが蔓延していた。
  2. 軍隊へのシビリアンコントロールは一連の見せしめの裁判で達成されたものであり、それらの裁判では本来守るべき手続きがかなり破られていた。起訴された将校に不利となる証拠が捏造ないし偽造されていた。そうしたエルドアンのやり方は、むしろ新たな傷口を開くものだった。
  3. クルド人との和平交渉は、憲法を修正して自らを今より強力な大統領職に就けようという試みの一環。これまでと同様、政治的状況が変われば簡単に掌を返すだろう。


もう一人はダロン・アセモグルで、ジェームズ・ロビンソンとの共同ブログの「中産階級は立ち上がっているのか?(Middle Class Rising?)」と題したエントリにおいて、以下の3点を指摘している。

  1. 経済的繁栄が民主主義をもたらすというシーモア・マーティン・リプセットの近代化理論は、実証的に支持されていない。
  2. 民主化の過程においては、中産階級も一定の役割を果たすものの、抑圧された人々の反乱が主要な役割を果たしてきた。
  3. ブラジルなど他国における動きとの類似性を過大視すべきではない。抗議活動発生の契機、根本原因、政権側の対応には大きな違いがある。
    • この点についてアセモグル(+ロビンソン)は、ブラジルの方が政権側が譲歩するかもしれないが、トルコでは民主主義が一歩前に進む事態が招来するかもしれない、という(ロドリックに比べ)楽観的な見方を示している。ただ、その前に社会の分裂が一層深まる事態も生じ得る、という懸念も同時に示している。


最後はインド準備銀行Centre for Advanced Financial Research and LearningのT Sabri Öncüで、インドのEconomic and Political Weekly誌寄稿し、政権のこれまでの成長戦略をネオリベ的で持続不可能なものだった、と断罪している。

*1:これについては例えば指導者フェトフッラー・ギュレンのWikipedia記事や、東京財団の「中東TODAY」のこの記事この記事を参照。