ミレイの未来はエルドアンより厳しい?

という主旨のOMFIF論説をMostly Economicsが紹介している。論説のタイトルは「Argentina and Türkiye: a tale of two adjustments(アルゼンチンとトルコ:二調整物語)」で、副題は「Milei and Erdoğan take contrasting approaches to economic problems」。著者は王立国際問題研究所のDavid Lubin。
以下は論説の冒頭。

Financial fragility among emerging economies these days is mostly found among the poorest, notably across sub-Saharan Africa. That said, Türkiye and Argentina, two relatively wealthy developing countries, have bucked this trend: both economies have been characterised in recent years by a persistent malaise that has triggered vast outflows of capital, very large currency depreciations and inflation at intolerably high rates, with all the misery that entails.
Yet both countries now have governments determined to clean up their economic mess, though each has chosen different paths towards stabilisation: ‘shock therapy’ in Argentina under its new President Javier Milei, and ‘gradualism’ under President Recep Tayyip Erdoğan in Türkiye.
Success is far from assured in either country. But for a raft of reasons, it is Türkiye that has the best chance of improvement. That’s not because gradualism is inherently more reliable than shock therapy; but rather because Türkiye’s problems are shallower than Argentina’s, and because the domestic politics and the geopolitics around Türkiye’s stabilisation seem more promising.
(拙訳)
今日、新興国経済における金融の脆弱性は、主に最貧国、特にサハラ以南において見られる。しかしながら、トルコとアルゼンチンという比較的富裕な発展途上の2か国は、この傾向に逆らっている。近年、両国経済は持続的な停滞が特徴となっており、資本の大量流出、非常に大幅な通貨の減価、耐え難いほどの高インフレ、およびそうしたことに伴うありとあらゆる苦難が、その停滞によって引き起こされた。
しかし今や両国政府は、自国の経済的混乱を一掃する決意を固めている。ただ、それぞれ安定化に向けて違う道を選択した。アルゼンチンは新大統領ハビエル・ミレイの下で「ショック療法」を、トルコはレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の下で「漸進主義」を選択した。
いずれの国でも、成功が約束されたとはとても言い難い。しかし多くの理由によって、改善の見込みが最も高いのはトルコである。それは、漸進主義がショック療法よりも信頼性が元々高いためではなく、トルコがアルゼンチンよりも傷が浅く、トルコの安定化を巡る国内政治と地政学がより期待が持てる状況にあるためである。

Lubinはこの後、トルコの原罪は、低金利でインフレが下がるというエルドアンの主張に基づく金融政策にあった一方で、アルゼンチンの原罪は、政府債務を増やした財政政策にあった、と分析している。しかし、アルゼンチンも中銀の紙幣発行で財政を賄おうとしたため、結局、金融政策の問題に帰着した、とLubinは言う。
昨年5月に再選を果たしたエルドアンは、財務大臣と中銀総裁を入れ替え、正統的な経済政策にコミットするというシグナルを発した。ただ、新総裁は利上げを実施したものの、依然として金利はインフレ率を下回り続けており、そのことは漸進主義を明確に示している、とLubinは指摘する。財政政策でも中央政府財政赤字は2025年以降に漸く減少することになっており、こちらも漸進主義が取られている、とLubinは言う。それに対しミレイはショック療法を志している。漸進主義とショック療法のどちらかが本質的に優れているということはないが、ミレイの前々任者マウリシオ・マクリは漸進主義を採って失敗した、とLubinは指摘する。
経済の安定化の機会を決めるのは、調整スピードではなく、問題の深刻さと調整を巡る国内外の政治だ、というのがLubinの主張である。その点でトルコはアルゼンチンより有利だ、とLubinはみている。というのは、アルゼンチンの方がトルコよりも問題が深刻で、権力基盤が脆弱だからである。また、マクロ経済安定化が仮に上手く行った場合、海外からの長期投資を呼び込むという点でもトルコの方が有利、というのがLubinの見立てである。というのは、トルコの方が経済の分散化が進んでいるほか、EUに距離的に近く、また、地政学的にバランスの取れた外交関係を築いているからである。一方、ミレイは、最近では抑えつつあるものの当初は中国に明確な敵意を示していたほか、BRICSからも距離を置こうとしている。そうした動きはミレイのイデオロギーに基づくもののようだが、中国の指導者を味方につける可能性は低くなる。アルゼンチンやトルコのように経済的に問題を抱えている国は可能な限りの友好国を抱える必要があるが、友好関係を築くという点において少なくとも現時点ではエルドアンの方が上手であり、経済安定化を達成した暁にはその見返りは相対的に大きくなる、と述べてLubinは論説を締めくくっている。