今回のトルコのクーデターについて、ダニ・ロドリックが旅先のスペインからvox.comのエズラ・クラインの質問に答えている。
ロドリックは、このクーデターは非常に訳が分からず、計画も杜撰だった、と述べた上で、以下の点を指摘している。
Second, it is not clear who would benefit from a coup. The military is no longer the secularist stronghold with a strong esprit de corps and sense of mission it once was. (Hence the widespread theory in Turkey that this was a coup staged by Erdogan himself, designed to pave the way for an Erdogan dictatorship. But this doesn’t quite ring true either, in light of Erdogan’s recent attempts to mend fences with Russia and Israel to strengthen the economy. He must know that even a failed coup would wreak havoc with the economy.)
(拙訳)
第二に、誰がクーデターで得をするのかが明らかでない。軍隊はもはや、強い団結心と目的意識を持ったかつてのような世俗主義者の拠点ではない。(そのため、自分の独裁政権への道をお膳立てするためにエルドアン自身が企てたクーデターではないか、という説がトルコのあちこちで囁かれている。しかし、経済を強化するために最近エルドアンがロシアおよびイスラエルとの関係を修復しようとしたことを考えると、この説も正しいようには思われない。失敗したクーデターえさえ経済に大きな損害をもたらすことを彼は知っているはずである。)
また、ギュレン運動との関係については以下のように述べている。
Erdogan and his has allies blame the coup on a Gulenist cabal within the military. Fetullah Gulen is a US-based cleric who was once allied with Erdogan. Since their split, Erdogan has gone after Gulenists with a venom – declaring them a parallel state within the state (not too far from the truth).
We know that Gulen has a fair number of sympathizers in the military. In fact, the military may be Gulen’s last bastion of strength in Turkey, since others in the police, judiciary, media and other branches of the government have already been purged. No doubt, the government will use the coup as an opportunity to launch an even bigger attack on the Gulen movement.
The Gulen movement is certainly capable of a wide range of dirty tricks – but a coup does not seem to be their kind of thing. And besides, what did they stand to gain from such an amateurish attempt?
(拙訳)
エルドアンと彼の仲間は、軍内のギュレン主義者の一味にクーデターの責を負わせている。フェトフッラー・ギュレンは米国で活動している聖職者であり、かつてはエルドアンと同盟関係にあった。袂を分かった後は、エルドアンはギュレン主義者を迫害し、彼らを国の中の第二の国と呼んだ(それは真実からそれほどかけ離れてはいない)。
軍の中にかなりの数のギュレンの支持者がいることは周知の話である。実際のところ、軍はトルコ内のギュレンの最後の砦かもしれない。というのは、警察、司法、メディア、ならびに政府のその他の部門のギュレン主義者は、既に追放されたからである。疑いなく政府は、このクーデターを、ギュレン運動に対してさらに大々的な攻撃を仕掛ける口実とするだろう。
ギュレン運動は、確かに様々な不正工作を実行する能力がある。しかしクーデターは彼らのやり方ではないように思われる。それに、これほど素人染みた企てで彼らがどんな得をするというのだ?
クーデターの原因については以下のように述べている。
What are the causes? Is this pressure from refugees? Missteps from Erdogan? Economic unrest?
None of the above really. Whatever the reason and the actors involved, it was some kind of internal power struggle relating to none of those things.
(拙訳)
[クライン]原因は何でしょうか? 難民からのプレッシャー? エルドアンの失策? 経済的不安?
実際のところ、そのどれでもないだろう。理由が何にせよ、誰が関わったにせよ、そうしたこととは一切関係の無い、政府内部の権力闘争のようなものだった。
さらにロドリックは、自分は軍のクーデターは予測できなかった――エルドアンが専制を推し進め、国内の民族や宗教的な不和を悪化させたこと、およびクルド人との緊張関係を考えると、むしろ内戦の方が可能性があった――と述べた上で、インタビュー当時は進行中だったクーデターの行方について以下のように観測している。
I hope that the coup will fail. Assuming that is what happens, it will clear the way for total domination of Turkish politics by Erdogan. It will make it easier for him to make the constitutional changes he wants to make himself essentially the one and only politician deciding everything in the country.
Either way, the chances for democracy have receded even further.
(拙訳)
クーデターが失敗に終わることを望む。そうなった場合、エルドアンがトルコ政治を完全に掌握する道を拓くだろう。そうすると、エルドアンを国のあらゆることを決める事実上唯一の政治家にするという、彼の望む改憲が容易になるだろう。
クーデターがどう終わるにせよ、民主主義の可能性はますます後退した。
このインタビュー記事は15日付だが、ロドリックは概ね同様の主旨のProject Syndicate論説を17日付で上げている。そこでは、エルドアンの権力を強化する結果になるにせよクーデターの失敗が望ましかった、という見解がよりはっきりと述べられている。
The coup’s failure will thus bolster Erdoğan’s authoritarianism and do little good for Turkish democracy. Had the coup succeeded, however, the blow to democratic prospects surely would have been more severe, with longer-term effects. That provides at least some reason to cheer.
(拙訳)
従って、クーデターの失敗はエルドアンの独裁主義を強化し、トルコの民主主義にはほとんど寄与しない。しかし、クーデターが成功していたならば、民主主義の先行きへの打撃がより深刻なものとなっていたのは間違いない。そのことは少なくとも、喜ぶべき幾ばくかの理由を提供する。
また、市民による兵士への暴行についてはロドリックにとっても予想外だったとのことである。
Planes strafed civilians and attacked the parliament – very uncharacteristic behavior for the Turkish military outside areas of Kurdish insurgency. Social media were full of pictures of hapless (and apparently clueless) soldiers being pulled out of tanks and disarmed (and sometimes much worse) by civilian crowds – scenes I never thought I would see in a country that has come to hate military coups but still loves its soldiers.
(拙訳)
飛行機が市民を銃撃し、議会を攻撃する、というのは、クルド人の蜂起地域外においては非常にトルコ軍らしからぬ行動である。ソーシャルメディアは、一般市民の群衆によって戦車から引きずり出され武装解除され(場合によってはさらに手ひどい扱いを受けた)不幸な(そして明らかに途方に暮れた)兵士の画像で溢れている。軍のクーデターを嫌うようになっても兵士は愛していた国において見ることになると私が想像しなかった光景である。