FCIC(Financial Crisis Inquiry Commission)が危機に関する報告書をまとめた後の店仕舞いの際に、大量の追加資料を公開したという。
その資料の中には、バーナンキのインタビューも含まれていたが、そこで彼は以下のようなことを述べている(Mostly Economics経由のProf. Jayanth R. Varma's Financial Markets Blog経由)。
The problem was – well, to give you a broad perspective, around the world, the United States was the only country to lose a major firm. Everywhere else, countries were able to come in, intervene, prevent these failures.
And I think, politically speaking, this is one place where the parliamentary system probably worked better because the prime ministers and the parliamentary leadership were able to get together over the weekend, make decisions, and on Monday morning, able to take those choices. And, generally speaking, the central banks, although they were involved in Switzerland and other places, in finding solutions, were not leading the efforts to prevent the collapse of these institutions.
But in the United States, as you know – of course, we don’t have the political flexibility for the government – quote, unquote – to come together and make a fiscal commitment to prevent the collapse of a firm. And so basically, we had only one tool, and that tool was the ability of the Federal Reserve under 13(3) authority to lend money against collateral. Not to put capital into a company but only to lend against collateral. That, plus our ingenuity in trying to find merger partners, et cetera, was essentially all — that was our tool-kit. That’s all we had.
(拙訳)
問題は――広い観点からの話をすると、世界の中で、米国は主要企業を破綻させた唯一の国です。他はどの国も、政府が嘴を挟んで介入し、そうした破綻を防ぐことができました。
政治的に言えば、これは議院内閣制の方がうまく機能する一例だと私は思います。というのは、首相と議会の指導者が週末に顔を合わせて決定を行い、月曜の朝にその選択を実際に実行に移す、といったことができるからです。また、一般的に中央銀行は、スイスなどでは解決策の模索に参加していたということはあったものの、そうした金融機関の破綻を防ぐための取り組みを主導することはありませんでした。
しかし米国においては、もちろんご承知かと思いますが、皆で協力して一企業の破綻を防ぐために財政的に関与することを決める、といったことを可能ならしめるようないわば政治的柔軟性は我々の政府にはありません。というわけで、我々には基本的にたった一つの手段しか無かったのです。その手段とは、FRBが13章第3条に定められた権限より、担保と引き換えに貸し出しを行うことができる、というものでした。企業に資本を注入するのではなく、あくまでも担保を基に貸し出しをするだけです。それが、合併相手を探すに当たって工夫を凝らす、などといったことと併せて、基本的にすべてだったのです。それが我々の道具箱の中身でした。それしか持ち合わせが無かったのです。
即ち、米国だけが主要企業=リーマン・ブラザーズを破綻させる羽目に陥ったのは、大統領制という米国の政治制度に一因があった、とのことである。そのためFRBの貸出制度しか選択肢が残されていなかった、というわけである。
この後バーナンキは、なぜリーマンは助けずにAIGを助けたのか、という点を説明しているが、AIGに対してはあくまでも資産を担保に貸し出しを行ったのに対し、リーマンは単にバランスシートに30〜40億ドルの穴が開いているという状況だったのでそれができなかった、と述べている。
ちなみにバーナンキが上述の引用部で指摘した政治制度の問題についてVarmaは、それは米国の短所ではなく長所と見做すべきではないか、と述べている。少数の人間が密室で金融エリートの救済を素早く決めるような行為に対し、チェック&バランスによる制約が働くのは良いことではないか、というわけだ*1。
一方、Mostly EconomicsのAmol Agrawalは、自ブログで昨年5/15に紹介した欧州中央銀行(ECB)のロレンツォ・ビニ・スマギ(Lorenzo Bini Smaghi)専任理事*2の講演を再び引用し、欧州の政治制度も必ずしも危機対応に優れた体制ではなかったことを指摘している。仮に国内の大手銀行を(モラルハザード覚悟で)救ったのだとしても、ギリシャやアイルランドの救済に対しては素早く動けなかった、というわけだ。それに対し米国は、リーマン以前にも、1995年のメキシコ危機の際に議会が救済資金の拠出を拒否する、ということがあったが、この時はルービン率いる財務省が議会の承認の要らない為替安定化基金を利用することで乗り切っている。
ちなみにAgrawalは政治体制について
We keep having debates in India on this. Many have said that India should move to a Presidential system like US as it does away with plethora of parties and helps serve democracy better. This blog does not understand political science so not much thoughts on it.
(拙訳)
この点についてインドでは議論が続いている。インドも米国のような大統領制に移行し、過剰な政党を一掃し、民主主義がより良く機能するようにすべき、と言う人も多い。このブログは政治科学をそれほど理解しているわけではないので、そのことについて言うべきことはあまり無い。
とも述べているが、日本の経済学者の岩本康志氏も最近のツイートで
http://twitter.com/iwmtyss/status/43481886034624512:twitter
と述べている。ひょっとすると、議院内閣制には政局の不確定要素を多くすることにより、経済学者を「引かせて」しまう要因があるのかもしれない*3。