シリコンバレー銀行の破綻と2023年のパニック

というJournal of Economic Perspectives論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「The Failure of Silicon Valley Bank and the Panic of 2023」で、著者はAndrew Metrick(イェール大)。
以下はその要旨。

The failure of Silicon Valley Bank on March 10, 2023 brought attention to significant weaknesses across the banking system, leading to a panic that spread to other vulnerable banks. With subsequent failures of Signature Bank and First Republic Bank, the United States had three of the four largest bank failures in its history occur over a two-month period. Several features of the Silicon Valley Bank failure make it an ideal teaching case for explaining the underlying economics of banking (in general) and banking crises (specifically). This paper tries to do that.
(拙訳)
2023年3月10日のシリコンバレー銀行の破綻は、銀行システムの顕著な弱点に注目を集め、他の脆弱な銀行に波及したパニックを引き起こした。それに続くシグネチャー銀行とファーストリパブリック銀行の破綻によって、米国史上最大の4つの銀行破綻のうち3つが2か月の間に生じた。シリコンバレー銀行破綻の幾つかの特徴によって同破綻は、(一般的な)銀行業務と(特に)銀行危機の根底にある経済学を説明する理想的な教材となった。本稿はそれを試みる。

結論部では、銀行の支払い能力によって預金は貨幣のような役割を果たし、預金者にとって銀行を切り替えることにコストが掛かることから銀行に独占力が生じる、と説明している。そのため支払い能力と流動性はお互いを強め合い、それが銀行の収益の源泉となるが、いったん支払い能力に疑問符が付くとそれが自己補強してシリコンバレー銀行のように破綻に向かうことになる。それを防ぐためには単純に預金保険を拡大すれば良いように思われ、実際リーマン危機時に米連邦預金保険公社が一時的に導入した無利子預金に対する無制限の保証であるTransaction Account Guarantee(TAG)は成功例とされている。だが、そうした政策を恒久化することには幾つかの難がある、とMetrickは言う。一つには、TAG導入当時は金利はゼロに近かったので預金者が預金を手放すインセンティブが乏しかったが、今の高金利環境ではそうではない。もう一つは、仮に有利子預金にまで預金保険を拡大すると、銀行があの手この手を使ってあらゆる金融商品預金保険の対象にしようとするのは目に見えている。従って正しい水準の預金保険を見つけるのは難しく、それが銀行規制の課題になる、とMetrickは述べている。