アフリカの成長の奇跡だって?

少し前に、2011年にロドリックと共著論文を書いたMargaret S. McMillanのアフリカに対するやや楽観的な見方を示したNBER論文を紹介したが、今度はロドリックがアフリカに対するやや悲観的な見方を示したNBER論文「An African Growth Miracle?」を上げている
以下はその要旨。

Africa’s recent growth performance has raised expectations of a bright economic future for the continent after decades of decline. Yet there is a genuine question about whether Africa’s growth can be sustained, and if so, at what level. The balance of the evidence suggests caution on the prospects for high growth. While the region’s fundamentals have improved, the payoffs to macroeconomic stability and improved governance are mainly to foster resilience and lay the groundwork for growth, rather than to generate productivity growth on their own. The traditional engines behind rapid growth, structural change and industrialization, seem to be operating at less than full power. If African countries do achieve growth rates substantially higher, they will have to do so pursuing a growth model that is different from earlier miracles based on industrialization. This might be agriculture-led or services-led growth, but it will look quite different than what we have seen before.
(拙訳)
近年のアフリカの経済成長のパフォーマンスは、数十年に亘り衰退してきたこの大陸の経済について、明るい未来が訪れるという期待を膨らませた。しかし、アフリカの成長は維持できるのか、維持できるとしたらどの水準で維持できるのか、という点については素朴な疑問が残る。証拠を勘案すると、高成長の見通しについては留保条件が付きそうである。この地域のファンダメンタルズは改善したものの、マクロ経済の安定とガバナンスの改善の効果は、生産性の成長そのものではなく、主に回復力の養成と成長の礎の構築という形で現れた。構造変化と工業化という高成長のための昔ながらのエンジンは、フルパワーを発揮していないように思われる。もしアフリカ諸国が実際にこれまでより顕著に高い成長率を達成するならば、工業化に基づくこれまでの奇跡とは異なる成長モデルを追求する必要があろう。それは農業主導の成長かもしれず、サービス主導の成長かもしれないが、今まで我々が目にしてきたものとは随分違ったものとなろう。


こちらでungated版のWPが読めるが、McMillanが称揚した農業からの移行について以下のような記述がある。

To sum up, the African pattern of structural change is very different from the classic
pattern that has produced high growth in Asia, and before that, the European industrializers.
Labor is moving out of agriculture and rural areas. But formal manufacturing industries are not
the main beneficiary. Urban migrants are being absorbed largely into services that are not
particularly productive and into informal activities. The pace of industrialization is much too
slow for the convergence dynamics to play out in full force.
(拙訳)
まとめると、アフリカ流の構造変化は、アジア、およびそれ以前に欧州の工業化された国での高成長をもたらした従来のパターンとはかなり異なっている。労働者は農業や農村部から抜け出している。しかし、正規の製造業が主たる流入先とはなっていない。都会への移住者は主に、特に生産性が高いわけでもないサービス業や、非正規の活動に流れ込んでいる。収斂の動学がフルパワーを発揮するには、工業化のペースはあまりに遅すぎる。

ここで収斂の動学とは、ここで紹介した製造業の無条件収束の力を指している。


その上でロドリックは、アフリカが今後持続的な高成長を遂げるためには4つのオプションがある、として以下を提示している。

  1. 製造業を復活させ、工業化を再び軌道に乗せ、昔ながらの収斂への経路を可能な限り再現する
  2. 非伝統的な農産物への分散化を通じて、農業主導の成長を達成する
  3. いずれにせよほとんどの人は最終的にサービス業に従事するので、サービス業の生産性を急速に成長させる
  4. アフリカの地の利を生かし、天然資源を利用した成長を達成する

ただ、いずれのオプションについても悲観的な見方をロドリックは示している。
第一の選択肢についてロドリックは、劣悪なビジネス環境が問題になるものの、為替の減価政策によってかなりのところまで行けるはず、と述べている。しかし同時に、工業化がかつてに比べて難しくなっている(cf. ここで紹介したProject Syndicate論説)という点について警告している。

第二の選択肢については、やはり劣悪なビジネス環境が問題になるとともに、実際に成功した前例があまり無いことを指摘している。

第三の選択肢については、サービス業の生産性を上げることの難しさを指摘している(cf. 前述のProject Syndicate論説)。

第四の選択肢については、成功例の乏しさ(ボツワナカーボベルデ赤道ギニアといった小国が数少ない成功例)や資源の呪いといった問題を指摘している。