経済の魔女狩り

少し前に、カバレロがFTのThe Economists' Forumに「Economic witch-hunting」と題した記事を寄せていた(Economist's View経由)。


内容は、本ブログで以前ここここで紹介した彼の考えの繰り返しという感もあるが、今回の危機の原因に関する彼の考えがより明確に述べられているので、以下に簡単にまとめてみる。

  • グローバル・インバランスとレバレッジを今回の危機の原因とするのは皮相的な見方に過ぎず、魔女狩りのようなものである。
  • グローバル・インバランスは先入観の犠牲である。多くの経済学者や評論家が、危機発生の前に、米国への資本の流入が逆流したら、米国経済は崩壊するだろう、と予測していた。しかし、いざ危機が発生してみると、資本は質を求めて米国内に留まり、むしろ米国経済の安定に寄与した(確かにそうした資本が民間資産から[国債などの]公的資産に移されたことは経済に打撃を与えたが、キャピタル・フライトが起きなかったことには変わりはない)。
  • レバレッジは表面的な相関分析の犠牲である。問題は高レバレッジの金融機関にリスクが集中したことであり、レバレッジそのものではない。その違いは微妙なものに思えるかもしれないが、経済政策の設計においては決定的な意味を持つ。最適な対応策は、現在の政策のようにひたすら資本の積み増しを要求してレバレッジを減らすことではなく、金融システムにおいて重要な金融機関のバランスシートからリスクを取り除くことである。それは、前払いのマクロ経済保険のような形で達成されるべきである。
  • つまり、統制されるべきはグローバル・インバランスやレバレッジではない。問題となる不均衡は、トリプルAの金融商品への需要が米国内を含め世界中からあったにも関わらず、米国の金融部門がそれに応え切れなかったことにあった。より正確に言えば、応える能力はあるのだが、危機時にはその能力が発揮できない。従って、そうしたギャップが生じないような公的サポートを予め準備しておくべきである。


20日エントリで紹介したロゴフも含め、グローバル・インバランスを解決すべき問題として指摘する声は大きいが、カバレロはそれを魔女狩りと断じる。グローバル・インバランス自体を悪者視することの奇妙さは本ブログでも度々指摘してきたが、彼の主張のユニークな点は、それを米国における金融商品の不足の問題に帰着させた上で、米国の金融部門は本来はそうした金融商品を十分に提供できるはずだ、と述べていることにある。ただ、米国のサブプライムローン証券化した金融商品が今回の危機に果たした役割を考えると、さすがにこの主張に同意する人は少ないのではないだろうか。言ってしまえば、大量の食中毒事件を引き起こして食品の需給不均衡を招いた当の食品会社が、事件の影響から免れれば消費者の需要に応える健康な食品は十分に用意できる、と言っているようなものだからだ。
そう考えると、米国政府自身がそうした金融商品を用意する、ということが、カバレロの言う供給不足の解決案の一つとして浮かんでくる。これは、以前書いたように、経常赤字を上回るほど財政赤字を膨らませ、国債を発行する、という現在進んでいる方向に他ならない。
あるいは、資本輸出国それぞれが国内の金融商品を充実させ、そちらに投資するようにすべき、という解決案も考えられる。それは資本輸出国が国内投資を高めよ、ということと同義なので、結果的には、グローバル・インバランス解消を訴える人たちの意見と同じになる。


また、カバレロレバレッジも問題視すべきではないと言うが、Economist's ViewのMark Thomaは、金融危機というのは常に思い掛けないところから起きるので、彼の提唱する保険だけでその際のデレバレッジを防げるかは疑問、と指摘している。そうなると、やはりいざという時に備えた資本の充実、すなわちレバレッジへの歯止めが必要なのではないか、というのがThomaの考えである。