ディーン・ベーカー率いるCEPRが、小企業部門の雇用を国際比較したレポートを発表した(Economist's View経由)。
そこでは、まず、OECD統計の2007年時点の各国の自営業者比率が示されており、米国の同比率が、小企業が多い国というセルフイメージに反し、他国に比べむしろ低いことが指摘されている。
以下にCEPRのそのグラフを転記する…つもりだったが、なぜかCEPRのグラフでは日本をはじめとして抜けている国が多いので、OECDから直接取得したグラフを示す。
これを見ると、対象34ヶ国中、米国(7.2%)はロシア(5.7%)、ルクセンブルク(6.1%)に次いで下から3番目である。日本(13.4%)は19位であり、OECD平均(16.1%)は下回っているものの、概ね中位値と言える。
なお、1998年時点では日本は17.3%で16位であったので、9年間でおよそ4ポイントも下がったことになる。この自営業者の減少傾向については以前のエントリでも触れたことがあったが、上のグラフを見ると、OECD諸国に共通した傾向であることが分かる。
CEPRのレポートは、次いで、2006年時点の従業員20人未満の製造業企業の雇用比率を示している。そちらのグラフも、今度は日本は含まれているものの、やはり省略されている国が多いので、改めてOECDから直接取得したデータで描画したグラフを以下に示す*1。
これを見ると、日本は2割に達している一方、米国はその約半分の11.1%である。
CEPRレポートはさらに、OECD SME and entrepreneurship outlook 2005をソースにしたグラフを示し、ハイテク分野での小企業についても米国の雇用比率がそれほど高くないことを指摘している。残念ながらこちらについては日本は元データにも含まれていないので、それらの統計における日本の位置を知ることはできない。
ただ、同outlookには気になるグラフが載っていたので、代わりにそれを紹介しておく(ソース)。
これは、R&D関連ビジネスにおける小企業のシェアである。ご覧の通り、米国も高くはないが、日本はさらにそれを下回って対象28ヶ国中最下位である。
とは言うものの、上位の国の経済が必ずしも芳しいわけでもなさそうだが…。
CEPRがこのようなレポートを出したのには、例の医療改革問題が絡んでいる。結論部では、このように米国で小企業のビジネスが思ったほど盛んではないのは、他の国と違って国民皆保険制度が無いため、雇用者の医療負担が大きいためだろう、とやや牽強付会気味なことを述べている。
翻って考えてみると、日本の構造改革論者がモデルとする米国で、小企業の比率(なかんずくハイテク分野における比率)がそれほど高くないということは、雇用の自由化によって大企業から人材を開放してスタートアップを活発化することこそが日本経済の打開策、という彼らの論理に一抹の疑念を投じる事実と言える。CEPRレポートも、
One interpretation of these data is that self-employment and small-business employment may be a less important indicator of entrepreneurship than we have long thought.
と書いている。