生まれながらの売りポジションと買いポジション

フェリックス・サーモンが住宅の購入について面白い比喩を使った

In that sense buying a house isn’t an investment, so much as it’s a way of permanently covering your built-in short position when it comes to the shelter market.
(拙訳)
その意味で、住宅購入は投資ではなく、むしろ住宅市場における生まれながらの売りポジションを恒久的に解消する行為なのである。


Worthwhile Canadian InitiativeのNick Roweこの表現を取り上げ、以下のように話をさらに展開している。

  • この比喩は住宅に投資する見方を大きく変える。住宅を持たない場合、住むための家賃を払わなくてはならない。それは、株の売りポジションを持った時、その配当を(空売りのために借株をした相手に対し)払わなくてはならないのと同じである。
  • 一方、住宅を買ってそこに住めば、その生まれながらの売りポジションを解消できる。さらに住宅をもう一軒購入すると、今度は買いポジションに転じる。そのもう一軒の住宅からの家賃収入は、株の買いポジションの時に得られる配当に相当する。
  • つまり、住宅を持たず、借りなければならないことは、リスクを抱えることになる。住宅を購入すれば、そのリスクを解消できる。自分の居住用以外の住宅を購入すると、またリスクが発生する。ただし、最初のリスクは家賃が上がることに関してであったが、2番目のリスクは逆に家賃が下がることに関してである。
  • リスクとリターンのトレードオフを考えると、必ず自分の居住用の住宅を買わなければいけないということではない。ただ、購入の際は、取引コストも勘案した上で、借り続けるリスクを解消する保険料に見合う価格で買うべき、ということである。
  • また、比喩はあくまでも比喩なので、その限界には注意。たとえば…
    1. 家は燃えたり倒れたりして、自分の必要な居住機能を停止することがあり得る。そうしたリスクには保険が掛けられるものもあるし、掛けられないものもある。
    2. 家が変わらないとしても、自分の必要とする居住の種類が変わるかもしれない。もっと大きな家、もっと小さな家、違う場所での家が欲しくなるかもしれない。その時、売ろうとする家の価格が、買おうとする家の価格に比べ相対的に下落するかもしれない、というリスクに直面する。ただ、両方の家の価格が正の相関を持っていれば、リスクは部分的にヘッジされていることになる。家を借りる場合にはそうしたヘッジは無い。
    3. 家を買うのに借金をしなければならないとしたら、将来の金利は不確実なので、住宅ローンの利払いが上昇するリスクを抱える。その場合、そのリスクと、家を借り続ける場合の将来の家賃の変動リスクを比較する必要がある。
    4. もし家があと100年もつのに対し、自分の残り寿命が40年だとしたら、売りポジション解消のための買戻しを60年分余計に行なったことになる。将来のリバースモーゲージ価値も不確実である。自分の子供に相続するならば、このことは問題ではなくなるが。
    5. 他にも今思いつかない比喩の限界を示す理由があるだろう。
  • なお、人が生まれながらの売りポジションを持っているのは、住宅だけではなく、食料、衣料、自動車等々がある。
  • 一方、労働に関しては生まれながらの買いポジションである。労働の空売りができれば、それによって上記の売りポジションの解消に充てたいところであるが、現実には不可能。そのために我々はレバレッジ(不動産購入時の住宅ローン、株式購入時の証拠金)を必要とし、上述のようなリスクに直面することになる。