今月の初め、親の所得と学力の関係を初めて認めた文部科学省の調査が話題になった。
一方、その少し前に、デロングが蔵出しエントリを立てて、所得の不平等は確かに親から子に引き継がれる要素が大きいが、それにはIQの遺伝は僅かしか関与しないことを強調した(ひさまつさん経由)。
デロングのその主張の元ネタとなったボールズとギンティスの2002年の論文から、該当の統計分析を行なった箇所を簡単にまとめてみる。
- 一方、学校に通う年数は、所得に0.22の違いをもたらす。
- IQが学校に通う年数にもたらす影響は、0.53である。
- 従って、IQが最終的に所得にもたらす影響は、0.15+0.22×0.53=0.266である。
これをbとおく。
- IQが親から子に遺伝する係数は、γ=h2(1+m)/2と表せる。
- ここでhは実証的には0.5程度と見積もられている。
- mは似た知能同士のペアが親となる要因を示す。まったくランダムなら、m=0。
ここではm=0.2とする。 - すると、γ=0.15。
- 結局、親の所得がIQの遺伝を通じて子の所得に与える影響は、b2γ≒0.01
- 実際の親と子の所得の相関は0.5程度なので、IQの遺伝はそのうちの2%しか寄与していないことになる。
なお、ここではIQが所得に与える影響を、そのままIQと所得の相関係数として用いているものと思われる。すなわち、
[親所得] =0.266(b)⇒ [親IQ] =0.15(γ)⇒ [子IQ] =0.266(b)⇒ [子所得]
という経路を考えているものと思われる。
一方、親所得と子所得の間には相続という形でダイレクトに相関が発生するほか、冒頭で紹介した文部科学省の調査に見られるように、親所得と子IQの間にも、遺伝子を介さない相関が発生する。デロングは、そうした要素が、所得の不平等が世代を超えて引き継がれる要因の大部分(残り98%)を占める、と主張しているわけだ。