昨日紹介したマンキューのクルーグマン批判の前半部分に対し、当のクルーグマンではなくデロングから反論があった。そこでデロングは、将来の増税の悪影響が限られたものになることを簡単な数値計算で示し、マンキューがこの次に何か書く時には、まず封筒の裏で計算をしてみることだね、誰かそのための封筒をマンキューにあげてくれ、と皮肉っている。
デロングが計算した将来の増税の悪影響は以下の3点。
- 将来の増税による追加的な超過負担
- 将来の生産性の低下による将来の望ましい資本ストックへの悪影響
- 将来の望ましい資本ストックへの悪影響による今日の投資の低下
- 通常の減価償却率を想定すると、毎年の投資は、望ましい資本ストックのせいぜい1割である。従って、投資への悪影響は、望ましい資本ストックの低下幅0.10ドルの1割、即ち0.01ドルになる。
結局、今日の1ドル公共投資は、0.01ドルの民間投資のクラウドアウトと、0.05ドルの民間消費の減少をもたらすことになる。差し引きの刺激効果は0.94ドルである。
もし、将来の増税による追加的な超過負担が0.50ドルではなく20ドルならば、あるいは、1%の生産性低下が1.5%ではなく30%の望ましい資本ストックの低下をもたらすならば、確かに差し引きの刺激効果はもっと小さくなる。しかし、そうしたパラメータは筋が通ったものとは到底呼べない、とデロングは締めくくっている。
なお、ここで注意すべきは、デロングはあくまでも景気対策を打った初年度における効果と逆効果を比較している点である。それに対しマンキューは、おそらく現在価値同士の比較で考えているものと思われる。その意味で、両者の意見の食い違いは、ここで紹介したクルーグマンとコーエンの論争に通底しているように思われる。
別の言い方をすれば、デロングやクルーグマンは、将来に薄く広く延ばすことによって先送りした負担分を議論から捨象しているわけだ。実際クルーグマンは、ブログで、そうした先延ばしをしてでも現在の景気後退を食い止めることが重要、それが将来世代の負担を限定することにもつながる、と再三説いている(例:ここ、ここ、ここ、ここ;さらに7/7のエントリでは、左派版アーサー・ラッファーと呼ばれるのを覚悟の上、と断りつつ、緊縮財政を今実施することによる利払い軽減効果が微々たるもので、支出削減による悪影響をおそらく下回る、という試算を示している)。
*1:1.50÷30=0.05なので、デロングは30年間の負担を想定しているように思われる。