コント:ポール君とグレッグ君(2017年第3弾)・補足

6日エントリで紹介したマンキューのブログエントリに以下の追記がなされていた。

Update: Robert Waldmann looks at the issue, concluding "no one has made an algebra mistake. Taxes on capital and capital income are different."
(拙訳)
追記:ロバート・ワルドマンが問題を考察して、「誰も数学の間違いは犯していない。資本への課税と資本所得への課税は別物である」と結論した。

しかし、このマンキューの引用部の直前に、ワルドマンは以下のように書いている。

Now I think the actual lesson here is that it makes no sense to look at a long term change divided by a short term change.
(拙訳)
ここで私が思うのは、今回の本当の教訓は、長期的な変化を短期的な変化で割ったものを見ることに意味はない、ということだ。

この点をワルドマンは直前のエントリでも指摘している。

DeLong scolds Mankiw very harshly for using the word "static" with a different definition that the JCT. I personally wonder why Mankiw thinks anyone should be interested in a (long run)/(short run) ratio.
(拙訳)
デロングは、「静学的」という言葉を両院合同租税委員会(JCT)とは違う定義で使ったことでマンキューを厳しく叱責している。個人的には、なぜ(長期)/(短期)に興味を持つ人がいるとマンキューが考えているのか不思議に思う。

また、マンキューがリンクしたエントリのコメント欄でも次のように書いている。

Stepping back, one might consider a (long term)/(short term) ratio an odd thing to calculate. One might consider it a mistake to suggest it is a policy relevant ratio. But it isn't an algebra mistake
(拙訳)
一歩下がって考えてみると、(長期)/(短期)比率を計算するのは奇妙なことだ、と考えてもおかしくはない。それを政策に関係する比率として提示するのは間違いだ、と考えてもおかしくはない。しかしそれは数学的な間違いではない。


このワルドマンの指摘は、小生がこちらのエントリに書いた

なお、上の論者の誰も指摘していないが、マンキューの「静学的ファーマン比率」で小生がもう一つ問題だと思うのが、分母のdxは静学的だとしても、分子のdwの算出についてはdkを考慮し、それをモデルの第一式(r = (1-t)f '(k))から導出している点である。従って、分母と分子の仮定がちぐはぐな比率になっており、経済学的な意味が損なわれているように思われる。

と同じことを言っているものと思われる*1


そのワルドマンのエントリのコメント欄にデロングも登場し、以下のように短・中・長期の変化を整理している*2

  1. 課税前の資本の収益率が低下しない短期では、賃金は上昇しない。
  2. 課税前の資本の収益率が低下しない短期に、税収は(Δt)(k)(r/(1-t))だけ低下する。
  3. 課税前の資本の収益率が低下しない短期に、利益は(Δt)(k)(r/(1-t))だけ上昇する*3
  4. 課税前の資本の収益率が低下するが、発注した投資がまだ執行されない中期に、賃金は(Δt)(k)(r/[(1-t)(1-t+Δt)])だけ上昇する*4
  5. 課税前の資本の収益率が低下するが、発注した投資がまだ執行されない中期に、税収は(Δt)(k)(r/[(1-t)(1-t+Δt)])だけ低下する。
  6. 課税前の資本の収益率が低下するが、発注した投資がまだ執行されない中期に、利益は当初の水準に戻る。
  7. 資本ストックが均衡に達する長期では、賃金は(Δt)(k)(r/[(1-t)(1-t+Δt)]) + {ハーバーガーの三角項}だけ上昇する。
  8. 資本ストックが均衡に達する長期では、税収は(Δt)(k)(r/[(1-t)(1-t+Δt)]) - {rtΔk[1/(1-t+Δt) -1]}だけ低下する*5
  9. 資本ストックが均衡に達する長期では、利益はrΔkだけ上昇する。
  10. 資本ストックが均衡に達する長期では、そうした追加利益は海外に流れ、GDPとGNPの乖離が拡大する…。
  11. 政治的ノイズを削除し、バイアスと変動の望ましいトレードオフを得るためにΔk = 0としたJCTやOTAやCBOなどの「完全に静学的な」計算では、(Δt)(k)(r/[(1-t)(1-t+Δt)])だけ賃金は上昇し、税収は低下する。

デロングは、マンキューは(4)を(2)で割ってそれが「静学的な」分析だと主張しているが、そうしたことは前例が無いし、意味が無い、と指摘している。そして「静学的な」分析は(11)だ、と述べている。
これに対しマンキュー本人が同じコメント欄で反応し、自分のやったのは(7)を(2)で割ったことだ、と応じている。それに対しデロングは(意外にも?)素直に謝意を表している。

*1:ちなみに小生はその指摘をデロングのエントリのコメント欄に投稿している(ただしそのコメントでdw/dxの式を間違えている[1/(1+f '(k)/f "(k)*k)ではなく1/{1+(f '(k)*t)/(f "(k)*k)}が正しい])。なお、その後デロングは、ここで紹介したエントリで、「Mankiw correctly calculates kdτ when he is calculating the change in wages...But messes up when he calculates:dTR...」と書いている。

*2:cf. デロング自身のブログのエントリ、今回のワルドマンのエントリのきっかけになったと思しきマンキューの12/5エントリに反応したエントリ

*3:この短期の変化を本ブログの10/26エントリで引用したデロングの図で言えば、Cは変化せず、Aが一時的に増加してその分Bが減少する、ということになる。

*4:デロングのコメント(ないし12/9エントリ)によれば、資本の一単位当たりの税引き前借り入れコストの低下により追加的なキャッシュフロー r/(1-t) - r/(1-t+Δt) = rΔt/[(1-t)(1-t+Δt)] が生じ、それに資本ストックkを掛けたものが賃上げに充てることのできる総キャッシュフローということになる。あるいは微分式を考えるならば、本ブログの10/26エントリで引用したデロングのτ = tr/(1-t)という関係式からdτ = rdt/(1-t)2となるので、それを賃金上昇=kdτ(図のqのエリアで、税収減少に等しい)に代入したもの、と考えることもできる。デロングは、マンキューも賃金上昇に利用可能なキャッシュフローの計算ではこのように税引き前利益が税率引き下げの影響を即座に受けると前提したのに対し、税収の計算では影響を即座に受けないという前提を置いたために食い違いが生じた、と指摘し、「資本への課税と資本所得への課税は別物である」というのが食い違いの原因だというワルドマンの見方を否定している。

*5:[12/13追記]第2項のrの直後のtはおそらく不要なので取り消し線で削除。