気がつくと、昨日取り上げたデロング=サマーズ論文の基本的な考え方について、デロング自らが5/28ブログエントリで解説していた。
その(1)〜(3)式、および(9)〜(12)式は、昨日のエントリで整理したものである。即ち*1:
- 債務GDP比率を一定に保つために必要な税収の増加
- (3) ΔT = (r-g)(1 - mt)ΔG
- (9)式の効果による税収増加が(3)式における必要税収を上回る条件
- (10) smt > (r-g)(1 - mt) もしくは
(11) r > g + smt/(1 - mt)*2 もしくは
(12) s > (r-g)(1/mt - 1)
一方、その間の(4)〜(8)式でデロングは、ラッファー効果を取り入れている。
(3)式で税収を上げて債務GDP比率を維持することによる将来のGDPへのマイナス効果を、ラッファーパラメータξを用いて表わすと
(4) ΔYf = -ξ(r-g)(1 - mt)ΔG
となる。
この現在価値を(1)式と足し合わせた通時的な価値増分は
(5) ΔV = [m - ξ(1 - mt)]ΔG
であるが、もし乗数効果がゼロならば、
(6) ΔV = - ξΔG
となり、財政支出はマイナスの効果しか生み出さない。これは金利がゼロ下限に無い、完全雇用下における状況である。
ただ、mが
(7) m > ξ/(1 + ξt)
の条件を満たせばΔVはプラスになる。これは、t=1/3とすれば、ξ=1/4ならばm>3/13(〜0.25)、ξ=1/2ならばm>3/7(〜0.43)、ξ=1ならばm>3/4(=0.75)という条件になり、さほど大きな乗数は必要とされない。即ち、sという履歴効果が無くても、ある程度の乗数が発揮されれば財政支出は価値増加をもたらす。
なお、政府の借り入れ金利と通常の金利rの間にスプレッドρがあると、(5)式は
(8) ΔV = [m - ξ(1 - mt)(r+ρ-g)/(r-g)]ΔG
となり、費用便益計算は上記よりは複雑化する。南欧諸国のようにρが大きくプラスの場合は財政支出政策は宜しくないかもしれない。逆に、米国やドイツや日本のようにρがマイナスの場合には、費用便益計算はより好ましい結果をもたらし、場合によっては乗数がゼロでもΔVはプラスになるかもしれない。それはまさにアレキサンダー・ハミルトンが「国家の債務は天からの贈り物(a national debt would be a national blessing)」と呼んだ状態にほかならない、とデロングは言う。
最後に、ラッファー効果と履歴効果を組み合わせると、
(12) ΔV = [m(1 + s(1 + ξt)/(r-g)) - ξ(1 - mt)]ΔG
が得られる((1)式 + (9)式の現在価値 + 税収増加tms-(1-mt)(r-g)のラッファー効果の現在価値)。
ここでm=0.5, s=0.05, t=1/3, g=2.5%/year, r=6%/yearとすると、ξ<10ならばΔVはプラスになる、とデロングは指摘している*3。一方、Diamond and SaezやRomer and Romerではξは0.25と推計されたとの由。