22日エントリの追記で紹介したマンキューの「計算間違い」についてのデロングの指摘を巡り、経済学者の間で意見が割れている。クルーグマンはツイッターやブログでデロングを支持し、マンキューの間違いをラインハート=ロゴフのExcelの間違いになぞらえた。一方、ファーマン前CEA委員長は、マンキューは別に間違えてはいない、とツイートした。これに、ケイシー・マリガンも加わり*1、間違っているのはデロングとクルーグマンの方だ、と批判した。ちなみにマリガンは、問題となっている賃金増と税収減の比率を、ファーマンのこちらのツイートに因んで、ファーマン比率と名付けている。
意見が割れている大きな原因は、マンキューが税基盤の計算を「静学的(static)」と断っているためである。従って、デロングが考えたような利益の調整は考える必要はない、というのがマンキュー支持派の立場である。こうした議論を受けて当のマンキューは、話を前に進めるために動学的ファーマン比率を考えてはどうか、と書いている。具体的には、kとf '(k)が税率tとともに変化することを考慮しよう、とのことである。
ただ、このうちのf '(k)の税率tによる変化を考慮したのが、まさにデロングの指摘のように思われる。というのは、マンキューのモデルの第一式(r = (1-t)f '(k))に従ってf '(k)が変わるとすると賃金増と税収減がイコールになる、というのが彼の指摘だからである。
すると残るはkの税率tによる変化の考慮、ということになるが、それについては*2、
dx = -{(df '(k)/dt)*k*t + f '(k)*(dk/dt)*t + f'(k)*k}*dt
= -{(f '(k)/(1-t))*k*t + f '(k)*(dk/dt)*t + f'(k)*k}*dt
= -{(f '(k)/(1-t))*k + f '(k)*(dk/dt)*t}*dt
のdkに、マンキューが示した資本の変化と税率の変化の関係式
dk = {f '(k)/[(1-t)*f "(k)]}*dt
を代入すれば良いように思われる。
すると
dx = -{(f '(k)/(1-t))*k + f '(k)*(dk/dt)*t}*dt
= -{(f '(k)/(1-t))*k + f '(k)*(f '(k)/[(1-t)*f "(k)])*t}*dt
となる。これと dw = -[k*f '(k)/(1-t)]*dt から
dw/dx = 1/(dx/dw) = 1 / [1 + {f '(k)/(f "(k)*k)}*t]
が得られ、マンキューが導出した「静学的ファーマン比率」=1/(1-t)とは随分異なる式になる。即ち、税率tが消え、マンキューが入らないのが不思議だと首を捻っていた生産関数が入った式になっている(ちなみにクルーグマンは、dkを考えたら税率だけに依存する式になるわけがない、ということを図で示したが、これはその通りの結果になっている)。
なお、上の論者の誰も指摘していないが、マンキューの「静学的ファーマン比率」で小生がもう一つ問題だと思うのが、分母のdxは静学的だとしても、分子のdwの算出についてはdkを考慮し、それをモデルの第一式(r = (1-t)f '(k))から導出している点である。従って、分母と分子の仮定がちぐはぐな比率になっており、経済学的な意味が損なわれているように思われる。
*1:ちなみにファーマンはサマーズと足並みを揃えてハセットを批判しており、その点についてはマリガンは両者に強く反発している。昨日紹介したサマーズの反論に対してもマリガンは強く再反論している。
*2:[追記]当初以下の最初の式の{}内の第3項(f'(k)*k)が抜けていて、第1項と第2項にtが掛かっていなかったのを修正(d(f'(k)*k*t)/dtを計算すべきところをd(f'(k)*k)/dtとしていた)。それに伴いその後の記述も修正。なお、その修正時に気付いたが、ここで行っている計算はコクランのブログ記事のUpdate部の計算と同じである(マンキューはコクランの計算がコブ=ダグラスに限られるので一般形が見たいと書いていたが、コクランがf(k)にコブ=ダグラスを代入したのは一般形を導出した後である)。
[再追記]ちなみにその計算でコクランは、動学的ファーマン比率がマンキューの静学的ファーマン比率よりむしろ高くなることを示した。f '(k)の税率tによる変化を考慮したデロングの計算では、ファーマン比率はマンキューの1.5から1に低下したが、コクランは2という値を示している。これは、df'(k)を考慮すると生産が世界利子率に頭が抑えられる効果が働く半面、dkを考慮するとクルーグマンが図で示したように税収の減少が税基盤の拡大によって部分的に相殺されるという効果が働くためと思われる。