と題したフェルドシュタイン記念講演(原題は「The Fiscal Future」)の原稿をマンキューがブログに上げている。そこで彼は、債務GDP比率の上昇を止めるのは以下の5つの方法しかない、と述べている。
- 非常な高成長
- 政府の債務不履行
- 多くの人はあり得ないと思うだろうが、1500-1800年のスペイン、1998年のロシア、2015年のギリシャ、2017年のベネズエラ、2001、2014、2020年のアルゼンチンのようにソブリンデフォルトの例は数多くある。
- 米国でも、ハミルトン初代財務長官は独立戦争時の債務の不履行に反対したが、ジェームズ・マディソンなどハミルトン案に反対した人は部分的な債務不履行を考えていた。
- より重要なのは、セバスチャン・エドワーズ(2018*3)によると、米国は実際に一度債務不履行している。フランクリン・ルーズベルト大統領が金本位制から離脱した時、国債の金約款を放棄して訴訟沙汰になったが勝訴した。
- トランプがかつて債務についての経験と知識を吹聴し、債務再編したことを賢いこととして語ったこと、および2期目のトランプがオヴァートンの窓(政治の言説において受容可能とされる政策や議論の範囲*4)を拡張したがっていることも念頭に置くべし。
- 大規模な貨幣創造
- 自国通貨建ての債務を抱えている国は、債権者への返済のためにいつでも貨幣を刷れるので、デフォルトする必要は決してない、と時々言われるが、それは事実であるものの、その考えを推し進める人ほどそれが心強い考えだとは思わない。
- 歴史上、無謀な財政政策を賄うために中銀が貨幣拡張を用いてハイパーインフレーションに陥った例は数多ある。ハイパーインフレは債務不履行の一形態であるが、債務不履行のとりわけ破壊的なやり方である。
- 財政優位の状態が必ずドイツやジンバブエのようなハイパーインフレにつながるわけではなく、最近のトルコの年間75%のインフレのようなより穏やかな事例もあるが、それでも望ましいとは到底言えない。
- トランプが、大統領は金融政策にもっと権限を持つべき、と言っていることに注意。将来のFRBがどこまでそうした要求の多い喧嘩腰の大統領に抵抗できるかは不明なので、ハイパーインフレのシナリオは除外できない。
- 顕著な歳出削減
- 多くの人は、その詳細を知るまでは、この選択肢を支持する。
- DOGEは米国史上最大の政府職員削減の一つとなったが、ザッカーバーグのいわゆる「Move fast and break things」(素早く行動し破壊せよ)はスタートアップには良いかもしれないが、世界最大かつ最重要の政府の運営にとって正しいやり方では無かった。DOGEのやり方をどう見るにせよ、職員への報酬は連邦財政の約4%を占めるに過ぎず、財政全体への効果は限定的だった。また、政府職員の数は1950年代には非農業雇用の4.5%を占めていたが、今では2%以下であり、歴史的に高水準にあるわけではない。
- かつてジョージ・ブッシュ政権の財務省高官であったピーター・フィッシャー*5は、連邦政府を「軍隊付きの保険会社」と呼んだが、国防予算は連邦予算の約13%を占めている。連邦支出の半分以上が社会保障と医療関係で、その割合はこれまで増えてきており、ベビーブーマー世代の退職とともに今後も上昇を続けるとみられるが、それに切り込むのは容易ではない。米国人が政府が期待していることに鑑みると、顕著な歳出削減はおそらく問題外。
- 大規模な増税
- 以下の2つの理由により、これが長期的に最もありそうな結果だと考えている。
- これ以外の4つの方法はありそうにないか、もしくは受け入れられない。少しは実現したとしても、財政政策を維持可能な経路に乗せるには至らないだろう。
- 米国は他国に比べて税率が低い。
- 以下の2つの理由により、これが長期的に最もありそうな結果だと考えている。
この後マンキューは、どれだけの増税が必要か、および増税の方策について考察し、付加価値税(VAT)を候補として検討している。
財政赤字のゴルディロックス理論 - himaginary’s diaryの最後で述べたように、マンキューの財政赤字の見方はやや守旧的に思われ、経済成長を高めることによって連邦財政赤字を減らす政策 - himaginary’s diaryで紹介したエルメンドルフのように政府による成長の押し上げについてもう少し考えても良いのでは、という気が個人的にはする。ただ、野放図な減税や財政拡大が難しいことを認識するのも重要なことであり、その点では警鐘の役割を果たしていると言えるだろう。
*1:Are Ideas Getting Harder to Find? - American Economic Association。cf. アイディアは発見が難しくなっているのか? - himaginary’s diary。長期的な経済成長の見通し - himaginary’s diaryや発見が難しくなっているのは成長であってアイディアではない - himaginary’s diaryで紹介した論文も参照。
*2:cf. 我々の子供は経済成長を知らないままで終わるのか? - himaginary’s diary、長期停滞が意味すること - himaginary’s diary。
*3:
*4:cf. 残酷な関税のテーゼ - himaginary’s diary、サッチャーの功績 - himaginary’s diary。

