サッチャーの功績

昨日に引き続きクリス・ディローのサッチャー評の紹介。昨日の紹介から分かるように、ディローは決してサッチャーのファンではないが、死去の直後のエントリだということもあり*1、ここではサッチャーの良い点を挙げている:

  1. 実用主義
    • 左右両派は彼女が公共支出を削減したという神話を語りたがるが、それは事実ではない。GDPに占める公共支出の割合の低下幅はニューレイバーの初期よりも小さかったし、今後数年に予定されている低下幅よりも小さい。また1964-70年の労働党政権下よりも支出は大きかった。
    • 彼女は国民保健サービスを大きく改革することはしなかった。
    • 上記の二点に関し、彼女はイデオロギーよりは実用主義を重んじた。
       
  2. 政治家が抜本的な変化をもたらすことができるという認識をもたらした
    • サッチャー時代に、人々が許容する公共政策の範囲(Overton window)はシフトした。
    • その理由は、彼女のイデオロギーが勝利を収めたことだけにあるのではない。民営化のような元に戻すことが難しい変化を成し遂げたことや、公営住宅をテナントに売却して支持者を増やすという手段を通じて有権者を変化させたことにもある。ひたすら大衆の意見に叩頭する労働党はこれに学ぶべし。
       
  3. 警察・刑事証拠法
    • 60〜70年代の警察は腐敗した人種差別主義者のゴロツキの集まりだったが、この法によりその統制が図られた。ヒルズボロの悲劇や炭鉱ストライキはその試みが完全には成功しなかったことを示しているが、警官を崇め奉った後の多くの内務大臣たちよりはサッチャーが警察に対し懐疑的だったことは評価に値する。
       
  4. 「市場には勝てない」
    • サッチャーは政府にはできないことがあると分かっていた。法律による価格・賃金統制がその例。
    • 1987-88にローソンが独マルクにポンドをペッグさせようとした時や、1990年にERMに加入した時に、彼女が正しかったことが明らかになった。
       
  5. 幸運
    • 最初の任期で少なくとも2つの幸運があった:
      • フォークランド戦争
      • M3目標政策による予期せぬ不況で労働者の交渉力を奪い、結果的に利益率が高まり投資が促進されたこと(昨日のエントリ参照)
         
  6. スノビズムを減退させた
    • 彼女の成功は、女性や階級に関する富裕層のスノビズムを減退させた。彼女と似たアクセントで話すディロー自身も、仕事面でその恩恵を受けたかもしれない。ただ、そうした機会の平等の拡大は一時的なものに過ぎないかもしれないが。

*1:今回紹介するエントリは順番的には昨日紹介したエントリの前。