フィッシャー式逆さ眼鏡派の逆襲・その2

26日エントリで取り上げたフィッシャー式逆さ眼鏡派の論理について、クリス・ディローが独自の仮説を立てている


ディローはまず、高金利がインフレを低下させる、という通常の論理は、高金利が需要を抑制し、需給ギャップを開き、失業率を上昇させ、インフレ率を低下させる、という過程を前提にしている、と指摘する。しかし、少なくとも英国においては、失業とその後12ヶ月のインフレ率には正の相関があり、その前提が成立していないのではないか、と彼は言う。その理由として考えられるのは、高実質金利が負の供給ショックとして働き、需要を減らすだけでなく物価を上昇させるためではないか、というのが彼の仮説である。その過程について3つの可能性を彼は挙げている:

  1. 高実質金利によって企業が成長の追求よりも手元の現金を優先するようになり、価格を引き上げるようになる。
  2. 金利は、銀行融資の減少と結びついた時は特に、新規企業の立ち上げや拡張を妨げる。これは生産性上昇の主要な源泉である外部的な再構築を減らし、費用を増大させる。
  3. 金利は生産コストである。生産は時間と在庫を要するが、金利は両者の費用を上げる(reswitchingは取りあえず無視)。


こうしたメカニズムによって、高い金利が高い原油価格ないし生産費用と同じような働きをしているのではないか、とディローは言う。その場合、NAIRUと物価がともに上昇する。
ただ、サッチャーやボルカーのように、金利引き上げによって成功裏にインフレを抑え込んだ例も存在する。それについてディローは、不況に「洗浄」効果があるか否かによって結果が変わってくるのではないか、と言う。ゾンビ企業(ディローはlame ducksと表現している)を殲滅し生産性の高い企業を成長させるならば、高金利はインフレを低下させるだろう。そうした洗浄効果が無ければ、インフレは低下しない、というのがディローの仮説である。