サッチャーの失敗した成功

クリス・ディローが、意図しない形で成功を収めたサッチャーの功績として以下の3つを挙げている

  1. 1980-81年の景気後退による労組の弱体化
    • この時に政策として採用されたマネタリズムは別に英国経済への体罰を意図したものではなく、インフレはもっとスムーズに低下するはずだった。しかし豈図らんや、失業とインフレのトレードオフマネタリストの予想に比べ峻烈で、失業者は300万人に達した。
    • ただ、その結果として労組の交渉力は弱まった。そのため、利益率や予想利益やアニマル・スピリットは高まり、1980年代の投資を促進した。
    • 確かにサッチャーは労組の弱体化を約束していたが、彼女は失業ではなく法の支配を通してそれを実施するつもりだった。
       
  2. 80年代初頭の信用統制の緩和
    • 彼女が経済の自由化の一環として考えていたその緩和は、予想を超えた大きな経済的インパクトをもたらした。即ち、消費者主導の社会と経済を生み出した。
    • 彼女は道徳的節度を持った貯蓄者による財産所有制民主主義を意図していた。しかし、現われたのは借金して浪費する人々の社会だった。
    • つまり、彼女は英国人に彼女の父親のようになって欲しかったのだが、彼らはむしろ彼女の息子のようになってしまった*1
       
  3. 炭鉱の閉鎖
    • サッチャーは赤字の炭鉱は「非経済的」だと言い、彼女の反対者は、失業給付より炭鉱への補助金の方が安上がりなのだからそれは正しくない、と言った。それに対しサッチャー派は、首を切られた炭鉱労働者は別の仕事に就く、と反論した。
    • しかし、その反論は間違っていた。閉鎖された炭鉱の地域雇用が元の水準を取り戻すことは無かった。柔軟な労働力は簡単に仕事を移れるという自由市場の概念は、この件については間違っていた。
    • にも関わらず、炭鉱ストライキサッチャーの勝利に終わったものと見做されている。資本の勝利、もしくは法の勝利、というわけだ(あるいは時代錯誤の後知恵で炭素排出の削減をその成果に付け加えても良いかもしれない)。炭鉱閉鎖による人的コストや、閉鎖の背後にあった経済理論が反駁されたことは、サッチャーの支持者たちによって都合良く無視された。

*1:息子の行状については例えばこちらのGQ Japan記事参照(H/T 稲葉振一郎氏がRTされたジェクト氏のツイート)。