部門別経済における最適な金融財政政策

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Optimal Monetary and Fiscal Policies in Disaggregated Economies」で、著者はLydia Cox(ウィスコンシン大学マディソン校)、Jiacheng Feng(ジェーン・ストリート・キャピタル)、Gernot Müller(テュービンゲン大)、Ernesto Pastén(チリ中央銀行)、Raphael Schoenle(ブランダイス大)、Michael Weber(シカゴ大)。
以下はその要旨。

The jointly optimal monetary and fiscal policy mix in a multi-sector New Keynesian model with sectoral government spending and productivity shocks entails a separation of roles: Sectoral government spending optimally adjusts to sectoral output gaps and inflation rates---a policy supported by evidence from sectoral federal procurement data. Monetary policy optimally focuses on aggregate stabilization, but deviates from a zero-inflation target; in a model calibration to the U.S., however, it effectively approximates a zero-inflation target. Because monetary policy is a blunt instrument and government spending trades off stabilization against the optimal-level public good provision, the first best is not achieved.
(拙訳)
部門別の政府支出と生産性ショックのある多部門ニューケインジアンモデルでの最適な金融財政政策の組み合わせは、役割分担をもたらす。即ち、部門別政府支出は部門別生産ギャップとインフレ率を最適化するよう調整する。これは、連邦の部門別調達データの実証結果で裏付けされた政策である。金融政策は、マクロの安定を最適化することに注力するが、ゼロインフレ目標からは逸脱する。ただ、モデルを米国についてカリブレーションを行うと、事実上ゼロインフレ目標を近似する。金融政策はなまくらなツールであり、政府支出には安定と公共財供給の最適水準とのトレードオフがあるため、最善の状態は達成されない。


本文によると、仮に生産性ショックが全部門で完全に相関し、同じように伝播するならば、ゼロインフレ政策は生産ギャップを閉じることによって最善の状態を達成する(「聖なる一致(divine coincidence)」)。しかしその条件が満たされないと、金融政策はあまりになまくらなツールとなり、ショックによって効率的な水準からの逸脱が大きくなる部門へのウエイトを大きくする次善のインフレ指数を目標とせざるを得なくなる。この政策はマクロの生産ギャップを閉じるものの、インフレの変動と部門別生産は次善なものとなる。
ここで、部門別の微調整ができる財政政策を考慮すると、マクロの安定は金融政策、部門別調整は財政政策、という役割分担が最適、という結果が導かれる。ただし、正の生産性ショックを経験する部門については、最適ルールに基づく政府需要は、最善の場合よりも拡張的なものとなる。また、金融政策はゼロインフレ目標から外れることになるが、金融政策が唯一の安定化ツールである場合と比べたその逸脱の大きさは、定量的に小さなものに留まる。
論文ではさらに、部門別フィリップス曲線を統合した場合、マクロのコストプッシュショックのような余分な項が現れるが*1、これはゼロインフレ目標の金融政策の下では、最適ルール下におけるよりも6倍くらい変動が大きくなる、という結果を示している。従って、政府が最適な部門別財政政策に従った場合、ゼロインフレ目標政策が最適金融政策とほぼ同様の結果を出すとしても、マクロのコストプッシュショックの変動が大きくなるという問題を抱えることになる。
論文ではまた、マクロの政府需要の小幅な循環性は、財政政策が安定化の役割を演じることと矛盾しない(=部門レベルで安定化の役割を演じているので)、ということも示している。