貿易戦争と最適な金融政策の設計

というNBER論文が上がっているungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「Trade Wars and the Optimal Design of Monetary Rules」で、著者はStéphane Auray(CREST-Ensai*1)、Michael B. Devereux(ブリティッシュコロンビア大)、Aurélien Eyquem(HECローザンヌ)。
以下はその要旨。

Monetary rules may have a large effect on the outcome of trade wars if central banks target the CPI inflation rate or more generally changes in the relative price of traded goods. We lay out a two-country open-economy model with sticky prices where countries engage in trade wars. In the presence of monopoly pricing markups, we show that the final level of tariffs and welfare losses from trade wars critically depend on the design of monetary policy. If central banks adopt a fixed nominal exchange rate or even better target the CPI inflation rate, trade wars are much less intense than those under PPI inflation targeting. We further show that an optimally delegated monetary rule that internalizes the formation of non-cooperative trade policy can actually completely eliminate a trade war, and even act to partly offset the welfare cost of monopoly markups.
(拙訳)
中銀がCPIインフレ率、もしくはより一般的に貿易財の相対価格変化を目標とするならば、金融政策のルールは貿易戦争の帰結に大きな影響を及ぼす可能性がある。我々は、国が貿易戦争を行っている、粘着的な価格を持つ2カ国開放経済モデルを構築した。独占的価格マークアップが存在する時、関税と貿易戦争による厚生損失の最終的な水準は、金融政策の設計に大きく左右されることを我々は示す。中銀が固定名目為替相場を採用するか、もしくはより良い政策としてCPIインフレ目標を採用するならば、貿易戦争はPPIインフレ目標におけるものよりも緩和される。我々はまた、非協力的な貿易政策の形成を内部化する金融政策ルールに最適な形で委ねられるならば、実際のところ貿易戦争は完全に無くなり、独占的マークアップの厚生費用を部分的に相殺さえすることを示す。

著者は貿易戦争、名目硬直性、および金融政策 - himaginary’s diaryで紹介した論文と同じで、そこで構築したモデルを用いてCPIインフレ目標の優位性を示した研究となっている。
本文によると、貿易戦争が無く、国内価格が粘着的な場合は、国内財価格(生産者物価指数=PPI)を目標とするのが最適となるが、貿易戦争がある場合は、CPIインフレ目標PPIインフレ目標に優越するという。というのは、交易条件の変化を織り込んだ目標となるため、交易条件を操作しようとする関税政策のインセンティブを削ぐからである。即ち、独占的価格の歪みが存在する場合、最適な関税は、交易条件の改善による厚生利得と、独占による歪みの悪化がもたらす厚生費用とをバランスする必要があるが、CPI目標の下では関税当局が厚生費用のウエイトを高めるため、望ましいと考える関税が低下する。
その話を一歩進めると、金融政策ルールで貿易当局の動きを内部化してしまえば、関税を引き上げるインセンティブを完全に削いでしまい、貿易戦争を消滅させることができる。のみならず、最適なルール下では小幅なマイナスの関税が導入され、既存の生産における独占による歪みを部分的に解消さえすることになる、と著者たちは述べている。