貿易が自由貿易でない理由は? 顕示選好アプローチ

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Why is Trade Not Free? A Revealed Preference Approach」で、著者はRodrigo Adão(シカゴ大)、Arnaud Costinot(MIT)、Dave Donaldson(同)、John A. Sturm(プリンストン大)。
以下はその要旨。

A prominent explanation for why trade is not free is politicians’ desire to protect some of their constituents at the expense of others. In this paper we develop a methodology that can be used to reveal the welfare weights that a nation’s import tariffs implicitly place on different groups of society. Applied in the context of the United States in 2017, this method implies that redistributive trade protection accounts for a significant fraction of US tariff variation and causes large monetary transfers between US individuals, mostly driven by differences in welfare weights across sectors of employment. Perhaps surprisingly, differences in welfare weights across US states play a much smaller role.
(拙訳)
貿易が無料自由貿易ではないことの有名な説明は、ある有権者を他の有権者を犠牲にして保護したい、という政治家の要求である。本稿で我々は、国の輸入関税が社会の相異なる集団に暗黙裡に課す厚生荷重を明らかにするのに使える手法を開発した。2017年の米国について適用したこの手法が示すところによれば、再配分的な保護貿易は、米国の関税のバラツキの有意な割合を説明し、雇用部門の厚生荷重の違いを主因とする大きな金銭的移転を米国の個人の間に引き起こす。おそらく驚くべきことに、米国の州ごとの厚生荷重の違いはより小さな役割しか果たさない。

論文では研究に用いた一般式として以下を示している。

ただしtgは財gの関税、微分項 ∂[ω(n) − ω¯ ]/∂mg は財gの(純)輸入mgの追加的な増加による個人nの実質収入の人口全体に比べた相対的な追加的変化、β(n) は貿易政策による個人nの追加的な社会的移転収入、Residualgは再配分以外の動機による保護貿易の効果を示す。ここでは貿易政策により経済のパレートフロンティア上の点が「選択」されるが、その過程がどのようなものであるかは問わない。また、残差項は具体的には交易条件の操作と、歪みの次善の修正を指す。
実証分析において著者たちは、上式をtgを被説明変数とし、{∂[ω(n) − ω¯ ]/∂mg}を説明変数とする回帰式として扱っている。係数は厚生荷重ベクトル{β(n)}(のマイナス)である。直観的に言えば、財gの関税の引き上げを選択することは、財gの追加的な増加で実質収入がより悪化する個人への社会的選好がより強いことを顕示することになる。