金融市場は為替相場について何と言っているのか?

というNBER論文が上がっている(H/T Mostly Economicsungated版)。原題は「What do Financial Markets say about the Exchange Rate?」で、著者はMikhail Chernov、Valentin Haddad、Oleg Itskhoki(いずれもUCLA)。
以下はその要旨。

Financial markets play two roles with implications for the exchange rate: they accommodate risk sharing and act as a source of shocks. In prevailing theories, these roles are seen as mutually exclusive and individually face challenges in explaining exchange rate dynamics. However, we demonstrate that this is not necessarily the case. We develop an analytical framework that characterizes the link between exchange rates and finance across all conceivable market structures. Our findings indicate that full market segmentation is not necessary for financial shocks to explain exchange rates. Moreover, financial markets can accommodate a significant extent of international risk sharing without leading to the classic exchange rate puzzles. We identify plausible market structures where both roles coexist, addressing challenges faced when examined separately.
(拙訳)
金融市場は為替相場に関係する2つの役割を演じている。リスク分担を可能にすることと、ショックの源泉として機能することである。主流の理論では、これらの役割は相互に排他的であり、それぞれが為替相場の動学を説明する上で問題がある。しかし我々は、必ずしもそうではないことを示す。すべての考え得る市場構造を通じて為替相場と金融の関係を特徴付ける分析枠組みを我々は構築する。我々の発見が示すところによれば、金融ショックが為替相場を説明する際に完全な市場分断は必要ではない。また金融市場は、古典的な為替相場パズルに至ることなしに国際的なリスク分担をかなりの程度許容できる。我々は2つの役割が共に存在するありそうな市場構造を識別し、個々に調べた場合に生じる問題に対処する。

本文によると、統合された完全市場では、各国の家計のリスク分担によって為替相場が完全に決定され、対数の為替相場の減価率Δsは、海外家計と国内家計の名目対数の異時点間の限界代替率(intertemporal marginal rate of substitution=IMRS)の差と等しくなる(下式)。
 Δst+1 = m*t+1 - mt+1
しかし、この定式化には以下の2つの問題がある。

  1. 多くのモデルはディスカウントファクターm*とm、延いては為替をマクロ変数に結び付けるが、そのモデルベースのモーメントと実証結果のモーメントの幾つかにおいて不整合が生じる(ボラティリティ、循環性、リスクプレミアムのパズル)。
  2. 上記の定式化では、金融市場がショックの源泉として振る舞う余地が無い。

今回の論文では、上式を以下の形に一般化している。
 proj(~Δst+1 | εgt+1) = proj(~m*t+1 - ~mt+1 | εgt+1)
ここで~は各変数のイノベーション(本来は変数の上に付く)、εgt+1は国際的に取引されているリスク、projは射影を示す。
ここでは、各国の家計が、国ごとに異なるであろう資産集合を自国通貨で取引していることが仮定されている。即ち、それらの資産に関する各国のIMRSについてオイラー方程式が成立する。ここではまた、それらの資産について国際的な無裁定条件を課しているが、それは、国際的なストカスティックディスカウントファクター(SDF)の存在を仮定することと等価になる。そのSDFは国内もしくは海外のIMRSと一致するかもしれないし、一致しないかもしれない。一致しない場合は、それは世界的な仲介者のディスカウントファクターとなる。
論文では、この式の左辺、即ち為替相場の国際取引要因の大きさによって市場構造を分類し、m*とmを固定して、市場構造がどのように為替相場に影響するかを調べている。