2値操作変数による非2値処置の累積的因果効果の識別

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Identifying the Cumulative Causal Effect of a Non-Binary Treatment from a Binary Instrument」で、著者はVedant Vohra(UCサンディエゴ)、Jacob Goldin(シカゴ大)。
以下はその要旨。

The effect of a treatment may depend on the intensity with which it is administered. We study identification of ordered treatment effects with a binary instrument, focusing on the effect of moving from the treatment’s minimum to maximum intensity. With arbitrary heterogeneity across units, standard IV assumptions (Angrist and Imbens, 1995) do not constrain this parameter, even among compliers. We consider a range of additional assumptions and show how they can deliver sharp, informative bounds. We illustrate our approach with two applications, involving the effect of (1) health insurance on emergency department usage, and (2) attendance in an after-school program on student learning.
(拙訳)
処置の効果は、処置が施される強度に依存する可能性がある。我々は、処置の強度を最小から最大に上げた場合の効果に焦点を当て、2値の操作変数による順序化された処置効果の識別を調べた。追加単位の任意の不均一性について標準的な操作変数の仮定(Angrist and Imbens, 1995*1)は、遵守者*2においてさえ、このパラメータを制約しない。我々は様々な追加的な仮定を検討し、それらがどのように情報を持つ明確な境界を提供するかを示す。我々はこの手法を2つの応用例で説明する。(1)救急診療の使用における健康保険*3、(2)学生の学習における放課後教育への出席*4、である。

ここで強度とは、投薬における投薬量や、教育における教育年数のような順序化された変数を指すが、処置したか否かの2値の操作変数を用いた2段階最小二乗法では、平均因果反応(Average Causal Response=ACR)が識別される。これは処置の強度を1単位変化させた因果効果の加重平均であるが、その加重平均のウエイトは、処置の様々な強度水準に曝された遵守者の割合に依存する(Angrist and Imbens, 1995)。
この論文では、累積的遵守者効果(cumulative complier effect=CCE)と著者たちが呼ぶ、処置の強度を最小から最大に上げた場合の平均効果に焦点を当てている。それは、処置の提供が存在しなければそれを受けなかったであろう人に処置を完全に施した場合に発揮される効果、という点で政策的に重要である、とのことである。
ACRからCCEを引き出す際には、2つの偏りを考慮する必要があるという。一つは、処置の強度が操作変数に影響を受けやすい遵守者の単位当たり因果効果に対しACRは過度なウエイトを置きやすい、という点である。もう一つは、遵守者が操作変数に誘導されやすい反応関数の範囲における単位当たり因果効果に対しACRは過度なウエイトを置きやすい、という点である。そのため分析対象の操作変数次第で、ACRから導出されるCCEは如何様にもなり得る。実際のところ、CCEが取り得るどんな値もデータでは排除できない、という点でCCEは完全に非制約となっている。そこで論文では、追加的な仮定を調べ、単位当たりの因果効果の不均一性を排除する仮定が鍵となる、という結果を得ている。