連続的な処置における差の差手法

直近のNBER論文から差の差関係の論文をもう一丁。表題の論文ungated版)の原題は「Difference-in-differences with a Continuous Treatment」で、著者はBrantly Callaway(ジョージア大)、Andrew Goodman-Bacon(ミネアポリス連銀)、Pedro H. C. Sant'Anna(エモリー大)。
以下はその要旨。

This paper analyzes difference-in-differences designs with a continuous treatment. We show that treatment effect on the treated-type parameters can be identified under a generalized parallel trends assumption that is similar to the binary treatment setup. However, interpreting differences in these parameters across different values of the treatment can be particularly challenging due to selection bias that is not ruled out by the parallel trends assumption. We discuss alternative, typically stronger, assumptions that alleviate these challenges. We also provide a variety of treatment effect decomposition results, highlighting that parameters associated with popular linear two-way fixed-effect (TWFE) specifications can be hard to interpret, even when there are only two time periods. We introduce alternative estimation procedures that do not suffer from these TWFE drawbacks, and show in an application that they can lead to different conclusions.
(拙訳)
本稿は連続的な処置における差の差手法の仕様を分析する。処置群に対する処置効果のようなパラメータは、2値の処置の設定と同様、一般化された平行トレンドの仮定*1下で識別できることを我々は示す。しかし、異なる処置の値におけるそれらのパラメータの差を解釈するのは、平行トレンドの仮定で排除されない選択バイアスのために特に難しいものとなり得る。我々は、そうした課題を緩和する、代替的、かつ通常はより強力な仮定を論じる。我々はまた、様々な処置効果の分解結果を提示し、一般に使われる線形2方向固定効果(TWFE)の仕様に結び付くパラメータは、期間が2期間しかない場合でさえ、解釈が難しいことを強調する。こうしたTWFEの欠点を有しない代替的な推計手順を我々は紹介し、その応用において、それが違う結論を導出し得ることを示す。

論文では、非処置と処置の結果の差を「水準処置効果(level treatment effect)」、処置の限界的な増加に伴う結果の差を「因果反応(causal response)」と呼んでいる。処置が2値(バイナリー)の場合は両者に差はないが、連続的な処置(論文では多値のケースも含めている)ではそうではなくなる。
非処置と処置を比較する時は通常の平行トレンドの仮定で良いが、異なる処置を比較する時は、著者たちが「強い平行トレンド(strong parallel trends)」と呼ぶ仮定が必要になる。その仮定を著者たちは、「処置量が少ない群の結果の経路は、処置量が多い群の結果が処置量が少なかった場合にどのように変化したであろうか、を反映しなくてはならない(the path of outcomes for lower-dose units must reflect how higher-dose units’ outcomes would have changed had they instead experienced the lower dose)」と定義している。その条件が満たされないと、因果反応による処置群同士の比較は、異なる処置群が同じ処置を受けた場合の処置結果の違いを示す追加項で「汚染される(contaminated)」ことになる。その追加項を論文では「選択バイアス(selection bias)」と呼んでいる*2

論文ではTWFEの以下の回帰式(ここでθtは時間固定効果、ηiは群固定効果、Posttは処置後期間ダミー、Diは処置量を示す変数)
    Yi,t = θtitwfeDi ·Postt +vi,t
のβtwfeを様々に分解している。水準処置効果で分解した場合には、適切なスケール変換を行なえば、各群の処置効果の加重平均として解釈できる。しかし、因果反応で分解した場合には、強い平行トレンドが成立している場合でさえ、解釈が困難になる。というのは、荷重(ウエイト)が処置量のウエイトと一致しないからである。そこで著者たちはノンパラメトリックな差の差手法を提示している。その手法での平均処置効果は、処置量がウエイトとなり、TWFEのウエイト問題が回避できるとのことである。
この手法の応用例として著者たちがアセモグルらの2008年の論文*3に適用したところ、1983年のメディケア改革によって病院が労働より資本を選好するようになったという結論は変わらないものの、資本労働比率の上昇率がTWFE推計値の5割増しの18%になったほか、平均因果反応(ACR)が低水準の補助金では代替の弾力性が2を超える高い値になった反面、大部分のプラスの処置量についてはややマイナスになったという。従って、処置効果がどの補助金の水準が最大の効果をもたらしたかについての政策の解釈や、生産関数パラメータの経済学的解釈については注意を要する、とのことである。