ゴロドニチェンコとウクライナ

マンキューがウクライナへの想いを述べたエントリを前回紹介したが、後続エントリで彼は、ゼレンスキー大統領の演説と、Yuriy Gorodnichenkoの2/25付けのエントリに、それぞれ「A powerful speech by Ukraine's president.」「A heartfelt plea from economist Yuriy Gorodnichenko.」というコメントを添えてリンクしている。後者については冒頭部分をhicksianさんが経済学101で邦訳されているので、それ以降の部分を以下に紹介してみる。

It is a test for all of us.
Will the United Nations follow the fate of the League of Nations that helplessly observed the world spiraling into World War II? Or will it rise to the occasion and protect peace?
Will the free world provide help to Ukraine to fight the aggressor? Or will it be like the “phoney war” after Nazis and Soviets invaded Poland in 1939?
Will the free world realize that this war will not stop in Ukraine? Or will it be like Sudeten in Czechoslovakia?
Will the free world understand that by trading with the aggressor they fund war and death? Or will it run the business as usual until the war comes to its every doorstep?
Will the free world reject spheres of influence and insist on self-determination of nations? Or will it end up in another Yalta agreement with countries condemned to repression and misery?
I don’t know answers to these questions. Poland, Finland, Baltics, or any other historically disputed territory or country could the next targets of insane ambitions. Or maybe not. A new arms race could exhaust the “peace dividend” after the end of the Cold War. Or maybe not.
But I know one thing. It’s a choice. And we are making this choice now.
(拙訳)
これは我々全員にとっての試練だ。
国際連合は、世界が第二次大戦になだれ込んでいくのをなすすべもなく眺めていた国際連盟と同じ運命を辿るのか? それとも、この難局に対処して、平和を守るのか?
自由世界は、侵略者と戦うウクライナを助けるのか? それとも、ナチスソビエトが1939年にポーランドを侵略した後のまやかし戦争のようになるのか?
自由世界は、この戦争がウクライナにとどまらないことを認識するのか? それとも、チェコスロバキアズデーテン地方のようになるのか?
自由世界は、侵略者と取引すると、戦争と死に資金を提供することになると理解しているのか? それとも、戦争が各国の足元に来るまで平常運転を続けるのか?
自由世界は、勢力圏を拒否し、各国の自決権を主張し続けるのか? それとも、複数の国が抑圧と悲惨に喘ぐことになるもう一つのヤルタ協定に終わるのか?
これらの問いへの答えは私には分からない。ポーランドフィンランドバルト三国、もしくは過去に紛争があったそれ以外のどこかの地域や国が、狂気の野望の次のターゲットになるかもしれない。あるいはならないかもしれない。新たな軍拡競争が冷戦後の「平和の配当」を食い尽くすかもしれない。あるいはそうならないかもしれない。
ただ、一つ私にも分かっていることがある。これは選択なのだ。そして我々はその選択を今行っている。

国の外交についての意見を控えたウクライナ移民三世のマンキューとは対照的に、自らがウクライナ出身であるGorodnichenkoはかなり直接的な呼び掛けを行っている。ちなみにGorodnichenkoは冒頭の文章で1/26付けの自エントリにリンクしているが、そこではウクライナ情勢について注意すべき点として以下を指摘している。

  1. ウクライナは1991年に独立した時に世界で3番目の核兵器大国となったが、米英露の安全保障と引き換えに1994年にそれを放棄するという他に例のないことを行った。しかし今や保証国の一つであったロシアがウクライナを侵略しようとしている。ウクライナの主権がこれほど乱暴に侵されようとしている時、どの国(韓国、日本、台湾、エストニア?)が自らは国際条約で守られていると信じられようか? 超大国が簡単に武力不行使の約束を破る時、どの国(イラン?)に核兵器開発をしないように納得させられようか? ウクライナが倒れたら、世界はもっと危険な場所になる。
  2. 20世紀に二度の大戦を経験した欧州は、国境を武力で変更しないという原則を各種の条約で確立したが、ロシアはクリミア併合とドンバスの一部支配をやってのけた。今度はウクライナの独立を脅かそうとしているが、人口と面積でカリフォルニアに匹敵するウクライナほどの大きな国を地図から消せるならば、欧州が再び血の海にならず、軍拡競争も起きない、と誰が期待できようか?
  3. 20世紀は、1991年のソ連崩壊が多くの欧州諸国に春をもたらし、民主主義の目覚ましい勝利で終わったが、今や民主主義の訴求力は衰え、旧ソ連の多くの国は専制体制に陥っている。ウクライナはその傾向に抗って自由な国であり続け、完全とは言えない経過を辿りつつも、民主主義が機能すれば何百万の人々の生活を改善できるという希望を近隣諸国に与えてきた。ウクライナが破綻したら、ロシアとベラルーシはどのような教訓を学ぶだろうか? この地域では民主主義は機能し得ず、専制体制の傾向は加速するということだろうか?
  4. ウクライナプーチンの最初の犠牲者ではなく、その前には2008年のジョージア侵略があった。他の専制体制国が見守る中、このまま押し返されることがなければ、侵略行為が紛争解決の手段として受け入れられることになる。コロナ禍やその他の問題で疲弊した世界は、戦争が回避できるならばプーチンと落としどころを見つけるのが良い考えだと思っているようだが、この平和は高くつく。ミュンヘンの宥和政策を想起すべし。ドイツに集団的な贖罪意識があるならば、なぜノルドストリーム2を支持できるのか?
  5. ウクライナは国境内外で、文化的な断絶を乗り越えることに努め、民族の包含と寛容を促してきた。ウクライナのロシアへの唯一の脅威は、ソビエトのレガシーを脱し、国を上手く治めるのにツァーリは必要ないということをロシアの人々に示したことにある。
  6. ウクライナは大国であり、その破綻の影響は大きい。シリアの10倍の難民が欧州に押し寄せ、戦場で原発が管理されないままとなることを誰が望むのか?
  7. ウクライナは冷戦期の西ベルリンと似た立場にある。西ベルリンは、ソ連との対立において経済的にも軍事的にも重要ではなかったが、ジョン・F・ケネディの「私はベルリン市民である」演説に象徴されるように、世界が自由のために戦う意志があることのシンボルであり、生きた証であった。ウクライナも自由対抑圧、平和対戦争、繁栄対困窮のシンボルとなっており、人々がウクライナ自体の運命に関心が無かったとしても、非常に多くの運命がそこに懸かっている。自由世界は今こそ団結してウクライナを支援すべきだ。