米中貿易戦争と世界的再配分

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「The US-China Trade War and Global Reallocations」で、著者はPablo Fajgelbaum(プリンストン大)、Pinelopi K. Goldberg(イェール大)、Patrick J. Kennedy(UCバークレー)、Amit Khandelwal(コロンビア大)、Daria Taglioni(世銀)。以下はその要旨。

We study global trade responses to the US-China trade war. We estimate the tariff impacts on product-level exports to the US, China, and rest of world. On average, countries decreased exports to China and increased exports to the US and rest of world. Most countries export products that complement the US and substitute China, and a subset operate along downward-sloping supplies. Heterogeneity in responses, rather than specialization, drives export variation across countries. Surprisingly, global trade increased in the products targeted by tariffs. Thus, despite ending the trend towards tariff reductions, the trade war did not halt global trade growth.
(拙訳)
我々は米中貿易戦争に対する世界の反応を研究した。米、中、それ以外の世界への製品レベルの貿易に対する関税の影響を推計した。平均すると、各国は中国への輸出を減らし、米国と米中以外の世界への輸出を増やした。大半の国は米国を補完し中国を代替する製品を輸出し、その一部は右下がりの供給曲線に沿って動く。特化ではなく、反応が均一ではないことが各国の輸出の違いをもたらす。驚くべきことに、関税の対象となった製品で世界貿易は増えた。従って、関税削減の傾向を終わらせたにもかかわらず、貿易戦争は世界貿易の成長を停止させることはなかった。

以下は導入部で供給曲線について説明した一節。

On the supply side, the resulting changes in the scale of production may have impacted marginal costs. Countries gaining scale in the US or China would reallocate away from the rest of the world under conventional upward-sloping supply curves, but the opposite would be true if the supply curves slope downward. In that case, countries would increase their exports not only to the US or China but also to the rest of the world
(拙訳)
供給側においては、結果として起きた生産規模の変化は限界費用に影響した可能性がある。米国もしくは中国で輸出規模を拡大させた国は、通常の右上がりの供給曲線では米中以外の世界への配分を減らすであろうが、右下がりの供給曲線では逆となる。その場合、各国は米国もしくは中国向けだけでなくその他の世界への輸出も増やす。

本文では概ね以下のような説明がなされている。

  • 中国への関税によって対米輸出が増えた国は中国の代替ということになり、その国にとって関税は正の需要ショックになる。
    • この時、需要曲線が右下がりならば、米以外の国への輸出の増加は右下がりの供給曲線を示す。その場合、米市場での正の需要ショックは供給を増やし価格を下げ、米中以外の世界への輸出を増やす。
    • 逆に輸出が減ったならば、ある輸出先での需要ショックによって他の輸出先への資源がそちらに振り替えられるという標準的な古典派経済学の世界に沿っている。
  • 中国への関税によって対米輸出が減った国は中国の補完ということになり、その国にとって関税は負の需要ショックになる。
    • この時、米中以外の世界への輸出が減ったならば、右下がりの供給曲線が示されたことになる。