オペレーション・ワープ・スピードはコロナワクチン以外のイノベーションを加速する手本となり得るか?

というNBER論文が上がっているungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「Can Operation Warp Speed Serve as a Model for Accelerating Innovations Beyond COVID Vaccines?」で、著者はArielle D'Souza(Institute for Progress*1), Kendall Hoyt(ダートマス大)、Christopher M. Snyder(同)、Alec Stapp(Institute for Progress)。
以下はその要旨。

Operation Warp Speed (OWS) was a U.S. government-led program to accelerate the development, production, and administration of COVID-19 vaccines. The program cut the typical ten-year timeline needed to develop a new vaccine down to ten months and began vaccinating vulnerable populations within a year after launch. OWS’s success has led to calls for a similar mission model to accelerate innovations addressing other pressing social needs, including a cure for Alzheimer’s disease or atmospheric-carbon removal to combat global warming. We provide a framework to understand which innovations call for a mission approach and apply economic principles to identify key design features that contributed to the success of OWS.
(拙訳)
オペレーション・ワープ・スピード(OWS)は、コロナワクチンの開発、生産、管理を加速させる米政府が主導した計画であった。計画は、通常は新ワクチンの開発に10年掛かる時間軸を10か月に短縮し、コロナに罹りやすい人の接種を計画の着手後1年で開始した。OWSの成功は、急を要する他の社会のニーズのイノベーションを加速するための同様の目標達成モデルへの要求につながった。そのニーズとは、アルツハイマー病の治療や、温暖化対策のための大気からの炭素の除去などである。我々は、どのイノベーションが目標達成アプローチを必要としているかを理解するための枠組みを提示し、経済原理を適用してOWSの成功に貢献した設計上の主要な特徴を識別する。

結論部では目標達成型のプログラムを適用する要件として以下の5つを挙げている。

  1. 対象となる問題は、政府当局が最優先事項の一つとすることに同意し、特別な関心を以って財政リソースを割り当てるだけの国家的重要性を持つものでなくてはならない。
  2. 対象となる問題は、月着陸のライバル国との競争にせよ、拡大するパンデミックに対応するワクチン開発競争にせよ、急を要するものでなくてはならない。
    • それほど急を要しない問題は、標準的なペースで、既存の政策と手続きで解決できる。
  3. 対象となる問題は、政府各局が極めて緊密に協力することを必要とし、分野横断的な当局によるリーダーシップを必要とする。
    • 単一の部局が標準的な手続きで解決できる問題は対象とならない。
  4. 対象となる問題は、問題の境界を定めて目標を明確化するような、きちんと定義されたゴールで対処されるものである。
    • イノベーション目標のゴールは、新技術の開発と適用である。大陸横断鉄道や州間幹線道路のようなインフラ目標は、既存の技術の大規模な展開を必要とする。
  5. 対象となる問題は、市場の形成を必要とする。
    • イノベーション目標もインフラ目標も、商業市場が公的資金なしでは提供しない差し迫った社会的ニーズが対象となる。そうした目標の対象は、純粋な民間財ではなく、国防やワクチンのような公共財としての側面があるためである。通常の民間財については、商業市場の方が政府よりも上手く人々の嗜好を集約し、経済投資を促す。

また、OWS成功の要因として以下の5つを挙げている。

  1. 巨額の資金を拠出した
    • 複数の候補に資金を提供し、利益の上がる購買契約を締結し、企業の投資コストを負担し、リアルタイムで規制のガイドラインを提供し、他の製品よりも優先的に承認審査を行うことには、すべての段階において大きな支出が伴う。各種報告によるとOWSの財政は総額180億ドルから300億ドルである。
  2. ポートフォリオアプローチを採用した
    • 複数のワクチン候補から購入した。一部は異なる技術プラットフォームを使用していたため、皆が失敗する確率は低く、少なくとも一つは成功すると期待された。
  3. 平時には見込み薄と見做されたであろうことを、緊急時には実施する価値があると判断した
    • FDAがこれまで承認してこなかった2つのワクチンプラットフォームを支援した。また、承認が下りる以前にワクチン生産能力の大規模な拡張への資金を提供した(リスク覚悟の生産戦略(at-risk capacity strategy)と呼ばれた)。ワクチンが臨床試験に失敗すれば資金は無駄になるが、承認後に生産能力を拡大することによる遅延を回避しようとした。
  4. 後押しと牽引のインセンティブ*2を組み合わせた
    • 一部の企業の開発と生産のコストを直接引き受けたほか、承認前に購買契約を締結した。
  5. 強力かつ効果的なリーダーシップがあった
    • 単一の統一目標の下、産業界と提携しつつ、政府当局間でリソースを調整することが可能になった。

結論部ではまた、OWSの反省点として指摘されていることとして、もっと予算を費やして対象を拡大しても良かったのではないか、という点や、一国独占の形を弱められたのではないか、という点を挙げている。
私見では、それ以外にも、反ワクチン運動がこれほど広範で根深いものとなったのは、OWSがあまりにも早く展開したため、ワクチンの危険性の審査が徹底的なものとならなかったことが要因として寄与しているのか、それともワクチンは必然的に副作用が伴うので、現在見られるような反ワクチン運動も避けられないものだったのか――避けられないとしても一部に見られる誤解や過剰反応を解くために何かできることはない/なかったのか――というのも、OWSをプロジェクト推進のロールモデルとして評価する際の検討課題となるように思われる。