分離主義で重要なのは所得かアイデンティティか? 世界の3,003の地域の分析

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Is Secessionism Mostly About Income or Identity? A Global Analysis of 3,003 Subnational Regions」で、著者はKlaus Desmet(南メソジスト大)、Ignacio Ortuño-Ortín(マドリードカルロス3世大)、Ömer Özak(南メソジスト大)。
以下はその要旨。

This paper analyzes whether the propensity to secede by subnational regions responds mostly to differences in income per capita or to distinct identities. We explore this question in a quantitative political economy model where people's willingness to finance a public good depends on their income and identity. Using high-resolution economic and linguistic data for the entire globe, we predict the propensity to secede of 3,003 subnational regions in 173 countries. We validate the model-based predictions with data on secessionist movements, state fragility, regional autonomy, and conflict, as well as with an application to the dissolution of the Soviet Union. Counterfactual analysis strongly suggests that identity trumps income in determining a region's propensity to secede. Removing identity differences reduces the average support for secession from 7.5% to 0.6% of the population.
(拙訳)
本稿は、地域が分離独立する傾向は、主に一人当たり所得の違いによるのか、それともアイデンティティの違いによるのかを分析した。我々はこの問題を、人々が公共財に資金提供する意思が所得とアイデンティティに依存する定量的な政治経済モデルで追究した。全世界の詳細な経済と言語のデータを用いて我々は、173か国の3,003地域の分離傾向を予測した。我々はモデルに基づく予測を、分離運動、国の脆弱性地方自治、および紛争のデータと、ソビエト連邦解体への適用で裏付けた。反実仮想分析は、地域の分離独立する傾向を決定する上でアイデンティティが所得を上回っていることを強く示唆している。アイデンティティの違いを取り除くと、分離への平均的な支持は人口の7.5%から0.6%に減少する。

ungated版によると、独立傾向が強い上位10%の中に日本の沖縄も含まれている。他はチベット(中国)、アチェインドネシア)、ロンバルディア(イタリア)、タタールスタン(ロシア)、カタロニア(スペイン)など。なお、論文では分離志向のある地域は国の平均よりも裕福であることを前提にしているため(人口の1割以上が分離を支持する地域は平均して13%裕福であるとのこと)、反実仮想分析ではその所得を幾ら減らすと分離への支持が1%以下になるか、という計算を行っている。それによると、平均して43%、沖縄やチベットの場合は30%所得を減らす必要があるとのことだが、この計算はさすがに前提が粗過ぎるように思われる。