降伏と継戦の得失:簡単な定式化

こちら細谷雄一氏の論考など、侵略を受けた国が降伏するべきかどうかを巡る最近の議論を読んで、降伏と継戦の得失を何か数式の形で表現できないかな、と考えてみた。以下はその簡単な試み*1

変数を以下のように定義する。
 Ns:降伏後に生じる損失*2
 p:敵に勝利する確率
 Nv:戦争を継続して勝利を収める場合、勝利確定までに生じる損失
 wv:勝利により損失が割り引かれる主観的な割引係数*3
 Nl:戦争を継続して敗北を喫する場合、敗北確定までに生じる損失
 Na:敗北確定後に生じる損失

このように定義した変数において、降伏よりも継戦の便益が大きいのは
 Ns > (1-p)(Nl+Na) + pwvNv                     …①
の場合となる。

ここでNsとNaについて考えてみると、当方が敗北した後の敵は、戦争が長引いたことによる復讐心の高まりや、当方の戦意を挫き再起を抑えようとする政策のために、早めに降伏した場合に比べて弾圧を強めると考えられる(cf. 中国のチベット東トルキスタンでの騒乱後の弾圧)。そのため、通常は
 Na > Ns
となると考えられる。ただ、敵側の勝利が十分ではなく当方の自立が確保される場合には
 Na < Ns
となる可能性もある(cf. フィンランドの冬戦争)。

降伏の利得を説く人は、敵側が比較的寛容で、Nsが小さいことを想定しているとみられる。その場合、①式で不等号を逆にした式が成立することになる。だが、占領が長期間続き、政治的な圧制が続くことや政治以外の文化面などでの損失も考えれば、Nsはかなり大きくなるとも考えられる。
仮想例として、損失を人数ベースで考え、p=0.1、Nl=Nv=10,000、Na=8,000、 wv=0.8とすると、①式の右辺は17,000となる。即ち、敗北したとしても敗北後の抑圧をある程度撥ね退けることができるだけの消耗を敵側に与えることができ、戦後の損失を即時降伏の場合の半分程度に抑えることができるならば、継戦の方が便益が大きいことになる(もちろん、ここで置いた数字は完全な仮想例なので、数字の置き方によって結果は変わってくることには注意を要する)。

*1:あくまでも素人がこの辺りの議論を個人的に整理しようとしたものに過ぎないことは予めお断りしておく。

*2:人的被害を主に考えているが、文化財や生活水準の低下、政治的自由の喪失、亡命による離郷などそれ以外の被害も含むものとする。以下同様。

*3:尊い犠牲の上に勝利が得られた」「決して無駄死にではなかった」的な感覚を表すものとする。