レプラコーン経済学

クルーグマンが、本ブログの10/22エントリで紹介した図による分析を敷衍する形で、トランプ減税のもう一つの問題点を指摘している。その問題点とは、減税の恩恵の多くが海外の投資家の手に渡ってしまう、という点である。

クルーグマンが最初にその点を指摘したのは10/25エントリであるが、自分で気付いたわけではなく、Tax Policy CenterのSteven M. Rosenthalの記事を見て初めてそのことに気付いた、と書いている。そこで彼が指摘したのは、米国株の35%は海外投資家が保有しているので、今後10年間の2兆ドルの減税分のうちおよそ7000憶ドルが海外投資家の手に渡ってしまう、ということであった。

11/8エントリクルーグマンは、別の角度からその問題を取り上げた。翌11/9エントリの冒頭で、論点の概要を以下のように記している。

Yesterday I noted that most discussion of the growth effects of the Cut Cut Cut Act, such as they may be, focuses on the wrong measure. GDP might go up because lower corporate taxes will draw in foreign capital; but this capital will demand and receive returns, which mean that part of the gain in domestic production is offset by investment income received by foreigners. As a result, GNI – income of domestic residents – will rise less than GDP. And surely, as in Ireland with its leprechaun economy based on low corporate taxes, GNI is the measure you want to focus on.
(拙訳)
昨日私は、大減税法案が成長に及ぼすとされる影響に関する議論の大半は、誤った指標に焦点を当てている、と指摘した。引き下げられた法人税が海外資本を呼び込むことによってGDPは上昇するかもしれない。しかしそうした資本は収益を要求し、かつ受領する。そのため、国内生産の利得は、外国人が受け取る投資所得によって部分的に相殺される。その結果、国内居住者の所得であるGNIの上昇はGDPよりも抑えられる。そして確かなことは、低い法人税に基づくレプラコーン経済のアイルランドと同じく、GNIこそが皆が焦点を当てたい指標なのである。

即ち、10/25エントリでクルーグマンは既存の海外投資家への恩恵を指摘したが、11/8エントリでは新規の海外投資家への分配により国内の恩恵はそれほど大きくならない、ということを指摘している。実はこれは本ブログが10/22に紹介した分析でも彼が指摘していたことであるが、11/9エントリでは下図を用いてさらに具体的な数字を試算している。

この図でr*は税引き後の要求収益率、tは当初の税率、t'は減税後の税率である。MPKは資本の限界生産物曲線である。減税による資本流入によって経済は曲線に沿って下向きに動く。GDPの上昇は資本の増加に沿った積分なので、領域a+b+cである。
しかし仮定により流入した海外資本は収益率r*を得るので、領域cはGDPへの追加となってもGNIへの追加とはならない。従って経済の真の利得はa+bである。
ここでr*=8%、t=35%とすると、r*/(1-t)=12.3%となる。税率を20%まで引き下げると、r*/(1-t')=10%となる。増加した資本は概ねその中間の11.15%の収益率を要求する。
クルーグマンGreg Leisersonの批判経由で取り上げた)Tax Foundationは、GDPは3%以上上昇するとしている。それはありそうにない数字ではあるが、取りあえずこれを使って流入資本を逆算すると、減税前のGDPの約30%ということになる。
従って、30%の8%である2.4%が海外に流出することになる。GDPの増加分は11.15%×30%=3.345%なので、米国の真の利得は0.945%にとどまる*1。これは大きな差である、というのがクルーグマンの指摘で、小国開放経済のごとく資本が流入したとしても減税推進派の考えるほど経済は楽観的な数字にはならない、と述べて彼はエントリを結んでいる。

*1:クルーグマンはそれぞれ3.45%、1.05%としているが、クルーグマンの数値例から単純に計算すると3.345%と0.945%になる。