と題したSlate記事(原題は「Donald Trump Is a Fascist」)をJamelle Bouieが書き、ウンベルト・エーコの挙げた14のファシズムの特徴*1のうち、以下の7つが特に良く当てはまる、としている(マンキュー経由のロス・ドウザット[Ross Douthat]NYT論説経由)。
- 「行動のための行動」への信仰
- 考えることは去勢の一形態と見做される
- 「分析的批判」への不寛容
- 意見の不一致は非難の対象となる
- 徹底した「差異への恐れ」
- 指導者は「侵入者」を告発する
- 個人および社会のフラストレーションに訴えかけること
- 特に、政治的に見下されたと感じ、社会的に下位の層からの圧力に怯える「鬱屈した中間層」に訴えかける
- 内外の敵に対し国粋主義的な同一性で対抗すること
- 陰謀という妄執
- 「敵のこれ見よがしの富と力」に対する屈辱感
- 大衆的なエリート主義
- すべての市民は世界の選良の一員であるとされ、弱者への軽蔑が強調される
- 攻撃的な(かつしばしば暴力的である)男らしさへの称賛
記事では、米国は弱体化して負けつつあり(=貿易で中国に、国境問題でメキシコに)、強い指導者の下で再び栄光を取り戻すべきだ、というトランプの主張、および不法移民や難民を排斥する姿勢をこれに重ね合わせ、トランプの個々の発言はともかく、総合的に見れば紛れもなくファシストのレトリックになっている、と述べている。
一方、NYTのドウザットは、上記の特色がトランプに当てはまることを認め、しかも米国保守派においてこれまでファシズムが勢力を得るのを防いできた要素――国家権力へのリバタリアン的な懐疑主義、地方や州の主権の重視、集団の力より個人の良心を強調する(特にプロテスタントにおける)宗教観――をトランプが欠いていることを指摘している。しかしながらドウザットは、以下の3つの理由から、トランプをファシスト呼ばわりすることは控えるべき、としている。
- トランプにファシスト的な傾向があるにしても、その類似性は彼のキャンペーン手法(リアリティ番組とWWEの悪役転向の融合)の一部に過ぎない。彼は実際にファシストの大衆運動を起こしているわけではないし、極右の知識人を結集させようとしているわけではない。
- 米国保守派においてこれまでファシズムが勢力を得るのを防いできた要素をトランプが欠いているまさにそのことによって、共和党でトランプがこれ以上支持を得ることは難しいだろう。
- トランプはファシストだと騒ぎ立てることは、彼が支持を拡大してきた正当な理由――労働者階級の保守派の共和党への大いなる不満、大量の低技能移民を党派を超えて支持していることへの真っ当な懐疑主義、米国のエリートが内外で国の運営に失敗したという正確な感覚――を無視する口実を既存の政治家に与えてしまう。
トランプの支持者に対しムッソリーニやヒトラーを持ち出すことは、問題を解決するよりは抑え込むだけに終わり、将来その抑圧された不満が強力さと有害性を増して舞い戻ってくることにつながるのではないか、とドウザットは言う。ファシストの萌芽をここで止める最良の方法は、満員の議論の会場で「ヒトラー!」呼ばわりすることでは無く、その主張がまったく理に適っていないことを明確化することだ、とドウザットは述べて論説を締め括っている。