「テロリストを成功者にしてはならない」政策と時間的非整合性

細野豪志氏の以下の発言が一部で話題を呼んでいる。


ここで細野氏が示した方針に対しては賛否両論が出ているが、このように意見が分かれるのは、一つにはこの方針が時間的非整合性を孕んでいるためと思われる。
即ち、ここで細野氏が提案しているのは、「テロリストを成功者にしてはならない」という原則の下、テロによって何らかの問題が浮き彫りになったとしても、その問題の直接的な政策的解決は避ける、という方針である。テロリストを成功者にしないことにより、次のテロの発生可能性を低める、というのがその方針の狙いということになる。
だが、いったんテロが起きてしまった場合、そのテロによって浮き彫りになった問題を解決することは、社会全体の厚生改善につながる。ここに時間的非整合性の問題がある。

そうなると、この方針を評価するには、この方針によるテロ抑止の効用と、この方針による事後の社会厚生改善阻害の不効用を比較較量する必要がある。

ここでこの方針のテロ抑止の効用について少し批判的に検討してみると、以下のような疑問が湧く。

  • 社会や政治の介入を求めるのではなく、個人的な怨恨を八つ当たり気味に有名人に向けることを目的とするテロに対しては抑止力とはならない
  • 政治や社会が動かないことにより、テロリスト側がテロを諦めるのではなくむしろエスカレートさせる可能性がある
    • 細野氏が危惧する過去のテロの連鎖(あるいは例えばイスラエルにおけるテロ)はむしろこちらの要因が強い可能性もあるのではないか
    • 今回のケースで言えば、仮にカルト宗教から親族を取り戻すことがテロリストの目的だった場合、現在の状況はテロリストにとって別に最終的な成功ではないことになる。その場合、社会や政治が動く場合と動かない場合では、前者の方が親族がカルトを脱する可能性が高まる。そうすると、仮に逮捕を逃れていた場合、社会や政治が動いた場合には様子見をすることにしていたであろう犯人が、社会や政治が動かない場合は犯行を積み重ねる可能性がある
  • 社会的に問題を抱える集団が、その方針を悪用して政策介入から逃れるため、自らに対して偽装テロを起こす恐れがある
    • この場合、テロ抑止とは逆に、むしろ本来生じる必要のないテロ促進のインセンティブが生じてしまうことになる

事後の社会厚生改善阻害の不効用についても、以下のような追加的な問題が生じる可能性がある。

  • 本来社会的に考えて推進すべき政策が、同政策の熱狂的な支持者によるテロが起きたことによってこの方針に抵触する形になり、推進が滞る恐れ
    • これについてもその政策の反対派による偽装テロが生じる恐れがある

これらの疑問点を超えてこの方針の有効性を言うためには、それなりの強いエビデンスが必要なように思われる。

財政赤字を巡る論点整理の一つの試み

防衛費の増額など政府支出の増加が求められる中、それを増税で賄うのか、それとも国債発行で賄うのか、という議論が折に触れ再燃している。ここでは、そうした論争における各論者の立場の違いを、自分なりに簡単に整理してみる。

ある年度の歳出と歳入を考えた場合、当年度の歳出を賄うのは税収か国債発行による借り入れに二分され、借り入れは最終的な返済手段によって3種類に分類できる。

  • 当年度の歳出を賄う手段
    • 当年度の税収
    • 借り入れ
      • 借り入れの最終的な返済手段による分類
        1. 将来の自然増収
        2. 将来の増税
        3. 将来のインフレ

このような財政の資金調達に対する各論者の立場を大まかに分類すると、以下の3つの理念型に大別される、というのがここでの試論。

  • 均衡財政主義
    • この立場の考え方は概ね以下の通り。
      • 当年度の歳出はあくまでも当年度の税収で賄うことを原則とすべき。借り入れは本来するべきではなく、するとしても資金調達の技術的な要因による一時的なものに留めるべき。
      • 将来の自然増収を見込んで支出や借り入れを行うのは、不確実性を伴う話であり、なし崩し的な支出と借り入れの拡大につながるのでやめておくべき。
      • 将来の増税やインフレで借り入れの返済を見込むのは、将来世代に負担を押し付けることになるので、以ての外。
    • 日本では、かつて経済と税収が高い成長を遂げていた時代には均衡財政主義が当然視されていたが、現在もこの考え方を堅持しているのは財務省の一部など少数派になっていると思われる。
  • EBPM重視派
    • この立場の考え方は概ね以下の通り。
      • 将来の自然増収が見込めるのであれば、その範囲で借り入れを認める。そのために各支出項目は精査する必要があり、費用便益分析などのEBPMによる裏付けを支出の要件とすべき。具体的には、原則として、当該支出による将来の増収によって現在の追加借入分が賄える項目のみ支出を認める。
      • EBPMを徹底すれば、なし崩し的な支出拡大は防げる。それを保証する制度的な仕組みとして、超党派の財政委員会などを設置する。
    • この考え方は、現在の経済学者やエコノミストでは比較的主流になっていると思われる。
    • この立場においても、将来の増税やインフレで返済を見込むのは、将来世代に負担を押し付けることになるので、以ての外、と考える人が多いと思われる。
    • 小生の愚見によれば、EBPMを支出の要件とすることは科学的な手法として評価できるが、ただし以下の点は要注意かと思われる。
      • 各支出項目についてEBPMを整備することは多大な労力を要し、現実的ではない可能性がある。
      • EBPMは、社会の在り方といった哲学的な要件に関する社会的なコンセンサスを取り込めるほど十分に進化していないと思われる。例えば、統計的生命価値だけで費用便益分析を推し進めた場合、年金や介護、生活保護などの社会保障の多くを削減したり負担増を求めたりする結果に陥る可能性がある。従ってその論理を貫徹し過ぎると、社会不安を招き、国の経済を却って損なう恐れがある。
      • EBPMはまた、研究開発のように個別項目の当たり外れが大きいがその結果が事前にはほとんど分からず、総合的かつ長期的視野で考える必要があるものの効果を測定できるほど十分に進化していないと思われる。そのためこの立場をあまり貫徹し過ぎると、長期的に国の経済の発展を支えるのに必要な支出を削減してしまう恐れがある。
  • シニョリッジ重視派
    • この立場の考え方は概ね以下の通り。
      • 借り入れをそもそも上記のいずれかの方法で返済する必要は必ずしもない。国全体の需要が生産能力を超えたことがインフレの高進で明確になるまで借り入れを増やしても経済に問題は生じないので、その範囲で財政支出は拡大できる。
      • その際、借り入れは、中銀によってマネタイズできる(注:MMTの考え方を取るならば、ここで中銀のマネタイズを介する必要もない)。
    • この考え方に対する小生の愚見は以下の通り。
      • この考え方に立ったとしても、インフレという制約が存在するので、野放図な財政支出が可能になるわけではない。従ってEBPMなどによる支出項目の優先付けは依然として必要。
      • この考え方に基づいて、シニョリッジによる支出拡大許容幅をある程度信頼性を以って計算できるならば、それも一種のEBPMと言うことができるのではないか。従って、EBPM重視派とこの立場の差異は見掛けほど大きくはないのかもしれない。
      • ただ、そうした計算に当たっては、個々の支出内容のみならず全体の支出の状況、ならびにそれと国全体の経済との相互作用を織り込む必要がある。こうしたマクロベースのEBPMの計算の複雑性は、通常のミクロベースのEBPMよりも格段に高いため、他の経済学者も納得できるだけの信頼性を得るには、経済学研究のさらなる発展が必要。それまではこの考え方によって主流派を説得することは困難と思われる。
      • 制約条件たるインフレをどこまで許容するか、というのも一つの検討課題(cf. 財政赤字ギャンブルの得失 - himaginary’s diary)。

統計学者がDSGEモデル批判で見落としていたこと

ここで紹介した統計学者のDSGE批判論文*1に対し、反論が幾つか上がっている。

特に最後のBraultの連ツイでの指摘は、論文の著者の一人のDaniel J. McDonaldも認めたようにみえる(謝辞を返している)ほか、Del Negroも認めたようにみえる(やはり謝意を評している)ので、論文の前半のポイントについて現時点での一つの痛打になっているように見受けられる。以下はその連ツイ。

An update to my previous thread on the McDonald-Shalizi paper. After looking at their codes I believe the findings in this paper are a result of coding errors. Not to do with the optim. procedure, but with the definition of model and data. Explanation in the following tweets.
Many LRE DSGE models are written in a canonical form and solved using Chris Sims Gensys routine. The canonical form is given by T0*y(t) = T1*y(t-1) + PSI*z(t) + PI*eta(t), where the y’s refer to model variables, z to exogenous variables, and eta’s to expectation errors.
T0, T1, PSI, and PI are just coefficient matrices defining the equations of the model. When writing down the model the authors include the standard deviations of the structural shocks (the “sigmas”) as parameters in PSI.
This means that any shock in z(t) will be scaled by its own standard deviation in PSI. This is not necessarily a problem, but an error occurs when the authors go to generate the simulated data used in this paper.
To generate simulated data involves generating a series of shocks and feeding them through the model. The authors draw shocks from a var/cov matrix where the variances are equal to sigma^2s. Hopefully the problem here is obvious.
The authors draw a series of shocks, z(t), where each shock has a standard deviation equal to it’s corresponding sigma. The shock is then again scaled by the sigmas in PSI before affecting model variables.
This means that the shocks used in the simulated data are much smaller than they should be. It also helps explain why the estimates they find for the sigmas are effectively the “true” sigmas squared (see figure 7 in their paper).
A quick sanity check for this point is to take the same calibration of parameters/shocks and generate data using their codes and the Smets-Wouters codes for DYNARE-Matlab. The volatility of variables should be the same.
Instead, what you’ll find is that the volatility of variables in the simulated data from their code is dramatically lower than what you find from DYNARE. The attached image is simulated output growth using identical calibrations.
This error is likely to make much of the subsequent analysis incorrect, since forecasts about the future states of the world will depend on beliefs about the possible shocks that may occur.
Also, in the model solution (modelsol.R) the authors parameterize the fixed cost share and the Taylor rule inflation feedback parameter to the same thing. This is obviously a typo as cfc should be parameter 26 in the vector. I have no idea how this impacts their results.
As usual, the DYNARE codes for this thread are available at https://github.com/braultjosh/SmetsWouters. The codes for the McDonald-Shalizi paper are available at https://github.com/dajmcdon/dsges (Thanks to @dajmcdon for sharing these).
(拙訳)
マクドナルド=シャリジ論文についての前回のスレッド*2のアップデート。彼らのコードを見たところ、論文の発見はコーディングのエラーの結果だと思う。最適化プロシジャではなく、モデルとデータの定義の問題だ。以下のツイートで説明する。
多くの線形合理的期待DSGEモデルは標準的な形式で書かれ、クリス・シムズのGensysルーチン*3を用いて解かれる。標準的な形式は T0*y(t) = T1*y(t-1) + PSI*z(t) + PI*eta(t) で与えられる。ここでyはモデル変数、zは外生変数、etaは期待の誤差を表す。
T0、T1、PSI、PI はモデルの式を定義する係数行列に過ぎない。モデルを記述する際、著者たちは構造ショックの標準偏差(「シグマ」)をPSIのパラメータとして取り込んだ。

そのことが意味するのは、z(t)のいかなるショックも、PSIにおける自身の標準偏差で基準化されるということである。これは必ずしも問題ではないが、著者たちが論文で用いたシミュレートされたデータを生成する段ではエラーが生じる。
シミュレートされたデータを生成するには、ショックの系列を生成し、それをモデルに供給することになる。著者たちは、分散がシグマの2乗に等しい分散共分散行列からショックを抽出している。問題は明らかだろう。

著者たちはショック系列z(t)を抽出しているが、各ショックの標準偏差は対応するシグマに等しい。ショックはモデル変数に影響を与える前にPSI中のシグマで再度基準化されている。
即ち、シミュレートされたデータで用いられたショックは本来あるべきよりもかなり小さいことになる。シグマについて彼らが得た推計値が事実上「真の」シグマの2乗だったこともそれで説明がつく(論文の図7参照)。
この点についての手っ取り早い健全性テストは、パラメータやショックの同じカリブレーションを使って、彼らのコードおよびスメッツ=ウーターズのDYNARE-Matlabのコードでデータを生成することである。変数のボラティリティは同じになるはずである。
実際の結果では、彼らのコードでシミュレートされたデータの変数のボラティリティは、DYNAREのものよりも劇的に小さい。以下の図は同じカリブレーションを使ってシミュレーションした生産の伸びである。

将来の世界の状態の予測は、起きる可能性のあるショックの想定に依存するため、このエラーによってその後の分析の多くが不正確なものとなった可能性が高い。
また、モデルを解く(modelsol.R)際に著者たちは、固定費比率と、テイラー則のインフレのフィードバックパラメータとを同じにしている。cfcはベクトルで26番目のパラメータであるべきなので、これは明らかにタイポである。これがどのように彼らの結果に影響したかは私には分からない。

いつものように、このスレッドのDYNAREコードはhttps://github.com/braultjosh/SmetsWoutersで利用できる。マクドナルド=シャリジ論文のコードはhttps://github.com/dajmcdon/dsgesで利用可能である(これらをシェアしてくれたことについて@dajmcdonに感謝)。

連ツイの最後のツイートでBraultは、以下の人にメンションしている。
@cmatthes_econ @marcodelnegro @paulgp @andypreston_UK @wjgatt @BachmannRudi @JavierGC14 @OtiliaBoldea @t_holden @yfatihkarahan @PfeiferEcon @Benchimolium

*1:ちなみにMRブログのアレックス・タバロックもこの論文を取り上げている

*2:これ。その中でBraultはPrestonのエントリに言及し、Prestonも反応している。McDonaldも反応してコードを提供し、それがこのスレッドにつながっている。

*3:cf. Solving the Model · DSGE.jl

レバレッジのリスク:年金業界の小さな一角が如何にして金融の安定性を脅かしたか?

10月の対応に関するBOE当局者の講演をもう一丁。以下は、イングランド銀行の金融安定戦略・リスク担当エグゼクティブディレクター、サラ・ブリーデン(Sarah Breeden)の表題の講演の冒頭(原題は「Risks from leverage: how did a small corner of the pensions industry threaten financial stability?」、H/T Mostly Economics関連日本語記事)。

On the afternoon of 28 September, I found myself in a rather unusual position: having to explain to journalists why a part of the pensions industry, unheard of to most of their readers, had posed such a large threat to financial stability that it warranted intervention in the gilt market from the Bank of England.
Financial markets globally had been volatile for months. But in the days leading up to that fateful Wednesday and following the announcement of the Government’s growth plan on 23 September, long-dated gilt yields in particular had moved with extraordinary and unprecedented scale and speed.
Now volatility itself does not warrant Bank of England intervention. Indeed, it’s essential that market prices are allowed to adjust to changes in their fundamental determinants efficiently and without distortion.
However, some liability-driven investment (LDI) funds were creating an amplification mechanism in the long-end of the gilt market through which price falls had the potential to trigger forced selling and thereby become self-reinforcing. Such a self-reinforcing price spiral would have resulted in even more severely disrupted gilt market functioning. And that would in turn have led to an excessive and sudden tightening of financing conditions for households and businesses.
In response to this threat, the Bank of England intervened on financial stability grounds. But what led to that intervention?
The root cause is simple – and indeed is one we have seen in other contexts too – poorly managed leverage.
So today I’ll set out how leverage outside the banking sector can create risks to financial stability, starting with that small corner of the pensions market. And then I’ll set out what needs to be done – by participants, by their regulators and by financial stability authorities – if we are to ensure those risks to financial stability are reduced.
(拙訳)
9月28日の午後、私は常ならぬ立場に自分が置かれていることに気付いた。記者たちに対して、彼らの読者の大半が聞いたことのない年金業界のある部分がなぜこれほど大きな脅威を金融の安定性にもたらし、イングランド銀行国債市場への介入を余儀なくされているかを説明せねばならなかったのだ。
世界の金融市場は、何か月もの間、変動性が高い状態にあった。しかし、9月23日の政府の成長プラン公表後、あの運命の水曜日に至る日々においては、特に長期の国債利回りが非常かつ前例の無い大きさと速さで動いていた。
なお、変動性が高いだけでイングランド銀行の介入が必然的なものとなるわけではない。実際のところ、市場価格がそのファンダメンタルズの決定要因の変化に対応して効率的かつ歪み無く調整できることは、極めて重要である。
しかし、債務に基づく投資(LDI)基金の一部は、国債市場の長期側において増幅メカニズムを作り出していた。それによって価格の下落は強制的な売却を誘発し、自己増強的なものとなる可能性があった。そうした自己増強的な価格の下落スパイラルは、国債市場の機能不全をさらに深刻なものとしたであろう。そしてそのために家計と企業の金融環境は突如として過度に厳しいものとなっていたであろう。
その脅威に対し、イングランド銀行は金融の安定性を根拠として介入した。だが何がその介入を招いたのだろうか?
根本的な原因は単純であり、実際のところ、別の状況でも我々が目にしてきたものだった。レバレッジの運用の失敗である。
ということで今日はまず、年金市場のその小さな一角をとば口として、銀行部門の外でのレバレッジが如何に金融の安定性へのリスクをもたらし得るかについてお話ししたい。次に、そうした金融安定性へのリスクの減少を確実なものとするために、市場参加者、規制担当者、金融安定性当局が何をなすべきかについてお話ししたい。

10月の13日間:中銀のバランスシートが如何に貨幣と金融の安定性を支え得るか

キューバ危機になぞらえたであろう表題(原題は「Thirteen days in October: how central bank balance sheets can support monetary and financial stability」)の講演をイングランド銀行の市場担当エグゼクティブディレクター、アンドリュー・ハウザー(Andrew Hauser)が行っている(H/T Mostly Economics関連日本語記事)。以下はその冒頭。

What a difference a month makes!
My original plan for this speech, back in early September, had been to talk through the Bank of England’s plans for accelerating its unwind of Quantitative Easing (QE) by selling government bonds.
That story can still be told – because QE sales began, successfully, on 1 November.
But the tale also has a surprise new chapter – a programme of temporary and targeted asset purchases that ran for 13 days between 28 September and 14 October, aimed at heading off a clear and present threat to financial stability.
Switching so rapidly from planned sales, to purchases, and back to sales again might appear to some to imply a confusing or contradictory policy stance. But I want to show today how, through a combination of operational choices – clear communications, robust tool design, and following through on pre-commitments – it is possible to use the central bank balance sheet to support both monetary and financial stability, in ways that reinforce and complement, rather than undermine, either goal.
In my remaining remarks I will first describe the events that triggered our extraordinary intervention, and the ways in which we designed that intervention to maintain clear separation from the monetary stance – drawing on national and international thinking that has been underway since the 2020 ‘dash for cash’.
I will then explain why we have returned to asset sales in support of monetary stability, and how those operations in turn have been designed to minimise the risks of triggering renewed dysfunction.
Finally, I will conclude by identifying some possible lessons and next steps.
(拙訳)
1か月で話が全然違ってきますね!
9月初め時点で私が考えていたこの講演についての当初の構想では、国債売却によって量的緩和QE)の巻き戻しを加速させるイングランド銀行の計画についてお話しするつもりでした。
今でもその話をすることはできます。QEの売却は11月1日に成功裏に始まりましたので。
しかしこの話には驚くべき新しい章が付け加わりました。9月28日から10月14日の間の13日間に実施された、一時的かつ対象を絞った資産購入計画です。その目的は、金融の安定性に対して明白に存在していた脅威を封じ込めることでした。
売却計画から購入計画、そしてまた売却計画にこれほど急速に切り替えることは、混乱ないし矛盾した政策スタンスを意味すると思われる方もあるかもしれません。しかし今日私がお示ししたいのは、明確なコミュニケーション、頑健なツールの設計、および事前のコミットメントの完遂というオペレーションの選択の組み合わせによって、貨幣ならびに金融の安定性を支えるために、いずれの目的も損わずにむしろ補強し補完する形で、中央銀行のバランスシートを利用することが可能だ、ということです。
残りのお話では、まず我々の異例の措置を招いた出来事、ならびにそうした措置が貨幣政策のスタンスとの明確な分離を維持する形でどのように設計されたかをご説明します。それは、2020年の「現金への駆け込み」以来、国内外で積み重ねてこられた考えに基づいています。
次に、貨幣の安定性を支えるために資産売却に立ち戻った理由、および、そうしたオペレーションが新たな機能不全を招くリスクを最小化するために今度はどのように設計されたか、についてご説明します。
最後に、教訓ならびに次のステップとなるであろうことを明らかにして結論としたいと思います。

機械学習のモデル化

というNBER論文が上がっている。原題は「Modeling Machine Learning」で、著者はAndrew Caplin(NYU)、Daniel J. Martin(ノースウエスタン大)、Philip Marx(ルイジアナ州立大)。
以下はその要旨。

What do machines learn, and why? To answer these questions we import models of human cognition into machine learning. We propose two ways of modeling machine learners based on this join: feasibility-based and cost-based machine learning. We evaluate and estimate our models using a deep learning convolutional neural network that predicts pneumonia from chest X-rays. We find these predictions are consistent with our model of cost-based machine learning, and we recover the algorithm's implied costs of learning.
(拙訳)
機械学習は何をどのような理由で学習するのだろうか? この問題に答えるために我々は、人間の認知モデルを機械学習に導入した。この結合に基づき我々は、機械学習をモデル化する2つの方法を提示する。実現可能性ベースの機械学習と費用ベースの機械学習である。我々は、胸部X線画像から肺炎を予測する深層学習畳み込みニューラルネットワークを用いて我々のモデルを評価し推計した。その予測は我々の費用ベースの機械学習と整合的であり、アルゴリズムに内包された学習費用を我々は抽出した。

コロナワクチンの事前のモラルハザード効果

というNBER論文が上がっている。原題は「The Ex-Ante Moral Hazard Effects of COVID-19 Vaccines」で、著者はVirat Agrawal(南カリフォルニア大)、Neeraj Sood(同)、Christopher M. Whaley(ランド研究所)。
以下はその要旨。

A long-standing economic question is how protection against harm from insurance or other harm reducing interventions leads to potentially offsetting behavior changes (ex-ante moral hazard). Immunization is a type of insurance, as individuals incur an upfront cost when they get vaccinated, but it protects individuals if they are exposed to a vaccine preventable disease. In this study, we empirically evaluate the ex-ante moral hazard effects of COVID-19 vaccines. First, exploiting the discontinuity in vaccination rates at age 65 due to early eligibility of older population, we compared vaccination rates and risk mitigation behavior between those just above and just below 65 years of age. We find no evidence of decrease in risk mitigating behavior among the 65 years old and older population. Second, leveraging state-level variation in the timing of when people in different age groups became eligible for vaccination, we estimate that COVID-19 vaccination has no effect on risk mitigating behaviors in adult population. Our findings imply minimal moral hazard effects of COVID-19 vaccines in the short-term.
(拙訳)
長きに亘る経済学の問題は、保険などの損害を減少させる措置による保護が、それを相殺する可能性のある行動変化(事前のモラルハザード)にどのようにつながるか、というものである。免疫は、ワクチンを接種する際に個人が費用を前払いし、ワクチンで保護できる疾病に曝された時に保護する、という点で一種の保険である。本研究で我々は、コロナワクチンの事前のモラルハザード効果を実証的に評価した。まず、高齢者が早期の接種対象になったことによる65歳でのワクチン接種率の不連続性を利用して我々は、65歳過ぎの人と65歳近くの人のワクチン接種率とリスク回避行動を比較した。その結果、65歳以上の人にリスク回避行動の減少は見られなかった。次に、異なる年齢層の人がワクチン接種対象となるタイミングが州によって違うことを利用して我々は、成人においてコロナワクチンがリスク回避行動に何ら影響しなかったという推計結果を得た。我々の発見は、短期におけるコロナワクチンのモラルハザード効果が最小限であったことを示唆している。