というNBER論文が上がっている(ungated(IMF)版)。原題は「The Rise and Retreat of US Inflation: An Update」で、著者はLaurence M. Ball(ジョンズ・ホプキンス大)、Daniel Leigh(IMF)、Prachi Mishra(アショカ大)。
以下はその要旨。
Why did US inflation rise over 2021-22 and why has it retreated since then? Ball, Leigh, and Mishra (2022), writing near the inflation peak, explained the rise with a framework in which inflation depends on three factors: long-term expectations; the tightness of the labor market as measured by the vacancy-to-unemployment (V/U) ratio; and large changes in relative prices in particular industries such as energy and autos. This paper finds that the same framework explains the retreat in inflation since our earlier work.
(拙訳)
なぜ米国のインフレは2021-22年に上昇し、その後後退したのか? ボール=リー=ミシュラ(2022*1)は、インフレのピーク時近くに書かれたが、インフレが3つの要因に依存する枠組みで上昇を説明した。長期の予想、欠員率と失業率(V/U)の比率で測定された労働市場の逼迫度、エネルギーや自動車のような特定の産業における相対価格の大きな変化、である。本稿は、同じ枠組みが、我々の前回の研究以降のインフレの後退を説明することを見い出した。
結論部では、自分たちの発見は以下の図に集約される、と述べている。

結論部ではまた、他の研究との異同について、自分たちの解釈はV/U比が中心的な役割を担うという点でBenigno=Eggertsson*2と共通しているが、V/Uよりも供給不足と部門別の物価上昇を主な要因としたバーナンキ=ブランシャール*3とは違う、と述べている。LeighとMishraがIMFのグランシャら(Mai Chi Dao、Pierre-Olivier Gourinchas)と共著したUnderstanding the international rise and fall of inflation since 2020 - ScienceDirect(WP)の指摘によれば、その違いは、ボールらの枠組みではV/Uとインフレの非線形な関係を許容すると同時に、V/Uが賃金インフレを通じてのみ物価に影響するバーナンキ=ブランシャールと異なり、マクロ経済の状況の幅広い尺度の一つとして物価に直接的に影響することを許容したためではないか、とのことである。
今後の動向については、2025年3月時点で12か月コア(中央値)インフレは3.5%とFRB目標と整合的な水準を超えており、そのことはV/U比が1.1と1985-2019年平均の0.6より依然として高いことを反映しているため、インフレをFRB目標まで下げるには労働市場をさらに冷ますことが必要、と述べている。2023年以降はベバリッジ曲線の内向きのシフトにより失業率が大きく上昇することなく欠員率が低下してきたが、その傾向が今後も続くためにはベバリッジ曲線がコロナ禍以前よりもさらに内側にシフトする必要がある。ベバリッジ曲線が現在の位置で安定化する、もしくは新たな労働市場の混乱によってむしろ再び外向きにシフトすることになれば、V/U比の正常化はベバリッジ曲線に沿って実現しなくてはならず、欠員率の低下とともに失業率の顕著な上昇が要求される、と論文の結論部では指摘している。そのほか、国際エネルギー価格の低下や、関税のインフレや世界供給網への影響も今後の総合インフレに影響する可能性がある。残念ながら、論文で見い出されたところによれば、インフレ的なショックはコアインフレに転嫁する一方で、ディスインフレ的なショックは転嫁しない、という非対称性があるという。従って、まとめると、インフレがどのくらいすぐに目標に戻るかは、どのようなショックが起きるか、V/Uの推移、長期的なインフレ予想が目標と整合的な水準に留まるか、に依存する、との由。