主体2つで十分ですよ、固有の所得リスクは無くても良いのですよ、分かってくださいよ

「Heterogeneity and Aggregate Fluctuations: Insights from TANK Models」というNBER論文をDavide Debortoli(ポンペウ・ファブラ大)とJordi Galí(CREI)が上げているungated版)。
以下はその結論部。

The emergence of HANK models has been viewed as a challenge to the heretofore dominance of the representative household paradigm in the modelling of aggregate fluctuations and their interaction with macro policies.
In the present paper we have sought to understand the role of idiosyncratic income risk - the key source of heterogeneity in existing HANK models in shaping aggregate fluctuations - by comparing the aggregate properties of three different versions of a HANK model to those of three tractable counterparts that abstract from idiosyncratic risk. In our effort to understand the mechanisms at work in the different HANK models and to design a tractable counterpart to each of them we have stressed the distinction between unconstrained and hand-to-mouth households, a distinction which is the hallmark of TANK models. For each HANK model considered, we have found a suitably specified and calibrated tractable model that captures reasonably well its implications for aggregate output and the main channels through which aggregate shocks are transmitted. That similarity increases dramatically in the presence of a policy rule that emphasizes inflation stability. Finally, we have shown that heterogeneity becomes irrelevant for the determination of aggregate output in the limiting case of a strict inflation targeting policy.
(拙訳)
HANKモデルの登場は、マクロの変動ならびにそのマクロ政策との相互作用のモデル化における従来の代表的家計パラダイムの支配への挑戦と見做されてきた。
本稿で我々は、HANKモデルの3つの異なるバージョンを、主体固有の所得リスクを持たない対応する追跡可能なモデルと比較することにより、既存のHANKモデルがマクロの変動を形成する不均一性の主要な源泉である固有の所得リスクの役割を理解しようと努めた。異なるHANKモデルで働いているメカニズムを理解し、それぞれについて追跡可能な対応モデルを設計しようとした際に我々は、制約の無い家計とその日暮らしの家計の区別を強調した。その区別はTANK*1モデルの顕著な特徴である。検討した各HANKモデルについて我々は、マクロの生産とマクロのショックが伝達される主要な経路についてのモデルの含意を比較的上手く捕捉する、適切に仕様が定められカリブレートされた追跡可能なモデルを見い出した。その類似性は、インフレの安定性を強調する政策ルールが存在すると劇的に高まる。また我々は、厳格なインフレ目標政策という極限のケースでは、不均一性はマクロの生産の決定と無関係になることを示した。

論文ではHANK-I、HANK-II、HANK-IIIと著者たちが呼ぶ3種類のHANKモデルを検討している。
HANK-Iは借り入れ制約が均衡において束縛とならず、株式が完全に非流動的なモデルで、独自の所得リスクとマクロの変動 - himaginary’s diaryで紹介した著者たちの以前の研究でベンチマークとした枠組みである。これについては代表的個人ニューケインジアン(=RANK)モデルがマクロの振る舞いの良い近似になるという。
HANK-IIは、家計の一部にとって借り入れ制約が均衡において束縛となる、という変更をHANK-Iに加えたものである。これについては標準的なTANKモデル(TANK-I)では上手く近似できないが、その日暮らしの家計の特性に変更を加えたTANK-IIでは近似できたという。
HANK-IIIはHANK-IIにおける完全に非流動的な株式という仮定を緩めたもので、これについては、HANK-IIIに登場する裕福なその日暮らしと貧乏なその日暮らしの区別を導入したTANK-IIIモデルで近似できたとの由。

*1:Two-Agent New Keynesian。