住宅投機、政府支援機関、および融資市場の波及効果

というNBER論文が上がっているungated(SSRN)版)。原題は「Housing Speculation, GSEs, and Credit Market Spillovers」で、著者はNatee Amornsiripanitch(フィラデルフィア連銀)、Philip E. Strahan(ボストン大)、Song Zhang(デラウェア大)、Xiang Zheng(コネチカット大)。
以下はその要旨。

In 2021, the U.S. Treasury reduced Government Sponsored Enterprises (GSEs) exposure to speculative mortgages. As a result, GSE purchases fell by about 20 percentage points. The policy reduced credit to speculative investors in housing, but increased credit to unaffected parts of the conforming-mortgage market. Banks responded by reallocating provision of speculative mortgage credit across their local markets, which in turn affected their provision of small business credit. These adjustments are most pronounced where banks do not own branches. The results suggest that banks manage credit provision not only in a macro sense – the focus of most research – but also market-by-market.
(拙訳)
2021年に米財務省は政府支援機関(GSEs)の投機的な住宅ローンのエクスポージャーを減らした。その結果、GSEの購入は約20%ポイント低下した。同政策は住宅への投機的な投資家に対する融資を減少させたが、コンフォーミング住宅ローン*1市場において影響を受けない部分に対する融資は増加させた。銀行は、地元市場の投機的な住宅ローン融資の提供を再配分することで対応したが、それが今度は中小企業融資の提供に影響した。こうした調整は銀行が支店を置いていないところで最も顕著であった。以上の結果は、銀行は融資の提供を、大半の研究が焦点を当てているマクロ経済的な観点からだけで管理しているわけではなく、市場別にも管理していることを示している。

何だか日本のバブル期の悪名高い不動産の総量規制を想起させる政策だが、日本の総量規制では不動産融資全体に網を掛けようとしたのに対し、上記の政策は別に不動産市場全体をどうこうしようとしたわけではなく、あくまでも非居住者による投機的な住宅取引への融資を狙い撃ちにした点は大きく異なると言えそうである*2。ただ、総量規制ではバブル潰しの行き過ぎのほか、農協系金融機関と住宅金融専門会社住専)が対象から漏れたために後の住専問題という思わぬ副作用を生んだ一方、こちらの政策も今回の分析によれば中小企業融資の低下という思わぬ波及効果をもたらしたわけで、両者とも不動産規制の波及効果の見極めの難しさを浮き彫りにしたという点では共通していると言えるかもしれない。

*1:cf. Conforming Loan: What It Is, How It Works, vs. Conventional Loan

*2:その意味ではフラット35の運用の厳格化に近いかもしれない――もちろん、フラット35については投機での利用がそもそも違法だという点は大きく異なるが。また、前回エントリでコメントしたように、日本のバブルとその崩壊では企業債務が大きな役割を演じ、それには不動産価格の高騰と暴落が少なからず絡んでいるわけだが、米国では近年の危機において住宅価格と家計債務が大きな役割を演じ、そのため当局が住宅価格の行方とGSEのリスクエクスポージャーに神経を尖らせている、という違いを反映しているとも言えそうである。