というFRBの小論をMostly Economicsが紹介している。原題は「Longer-Run Neutral Rates in Major Advanced Economies」で、著者はThiago R.T. Ferreira、Carolyn Davin。
その小論では、米加英欧の長期的かつ中立的な政策金利について、中銀当局の推計値とモデル推計値とを対比させている。
以下は各中銀の推計値。
中銀 | 推計値(%) | 出所 |
---|---|---|
FRB | 2.3 to 3 | Summary of Economic Projections, September 2022. |
カナダ銀行 | 2 to 3 | Staff estimates, April 2022. Public analytical note. |
ECB | 1 to 2 | Speeches from Governing Council members. |
BOE | 2 to 3 | Staff estimates, August 2018. Inflation report. |
以下はFerreira and Shousha (2021)のモデル(のアップデート版)による推計値グラフ。
各国の中立金利は世界金融危機後に上昇した後、コロナ禍で一段と上昇しており、直近値を当局の推計値と比較すると、カナダは当局のレンジよりやや上、米英とユーロ圏はレンジ内の低ないし中位に位置している、と小論では指摘している。
モデルでは中立金利の変化を各経済的要因で要因分解できる。以下はその結果表。
- 米国
1995-2007 | 2008-19 | 2020-22 | |
---|---|---|---|
総変化 | -2.3 | 0.2 | 0.5 |
債務供給 | -0.4 | 1.4 | 0.4 |
安全資産需要 | -0.7 | -0.1 | 0.1 |
生産性 | -0.1 | 0.1 | 0.4 |
人口動態 | 0 | -0.3 | -0.1 |
国際的な波及 | -0.6 | -0.4 | -0.2 |
その他の要因 | -0.5 | -0.4 | 0 |
- カナダ
1995-2007 | 2008-19 | 2020-22 | |
---|---|---|---|
総変化 | -2.1 | 0.3 | 0.1 |
債務供給 | -0.4 | 1.4 | 0.4 |
安全資産需要 | -0.7 | -0.1 | 0.1 |
生産性 | -0.6 | 0.2 | -0.5 |
人口動態 | 0.1 | -0.4 | -0.1 |
国際的な波及 | -0.1 | -0.4 | 0.2 |
その他の要因 | -0.5 | -0.4 | 0 |
- ユーロ圏
1995-2007 | 2008-19 | 2020-22 | |
---|---|---|---|
総変化 | -2.7 | 0.1 | 0.3 |
債務供給 | -0.4 | 1.4 | 0.4 |
安全資産需要 | -0.7 | -0.1 | 0.1 |
生産性 | -0.9 | -0.2 | -0.1 |
人口動態 | 0 | -0.4 | -0.1 |
国際的な波及 | -0.4 | -0.3 | 0.1 |
その他の要因 | -0.3 | -0.3 | -0.1 |
- 英国
1995-2007 | 2008-19 | 2020-22 | |
---|---|---|---|
総変化 | -2.8 | 0.2 | 0.6 |
債務供給 | -0.4 | 1.4 | 0.4 |
安全資産需要 | -0.7 | -0.1 | 0.1 |
生産性 | -1 | -0.2 | 0.4 |
人口動態 | 0 | -0.2 | -0.1 |
国際的な波及 | -0.6 | -0.4 | -0.2 |
その他の要因 | -0.2 | -0.2 | 0 |
小論の解説によれば、2008年の金融危機までは四経済の中立金利は2.1~2.8ポイント低下し、すべての要因がマイナス方向に働いた。2008年から2019年までは、公的債務増加による債務供給のプラスの寄与が他の要因のマイナスの寄与をそこそこ相殺した。コロナ禍以降は、政府債務の増加が中立金利上昇を大部分説明しており、他の要因はお互いを概ね相殺している。コロナ禍後の中立金利の上昇の大きさは、英米欧加の順になっている。
また、モデルで説明できない要因も中立金利に影響している。例えばウクライナ戦争の影響は交易条件ショックと解釈でき、マイナスの生産性ショックと同様に働くと考えられる。その他、地政学や経済や気候変動における数々の逆流が国際経済に与える打撃に伴う経済見通しにおける不確実性の上昇は、消費者や企業の警戒感を高め、投資需要を下押しして予備的貯蓄を増やすことにより、中立金利にマイナスに働く、と小論では指摘している。
小論は以下の文章で結ばれている。
All told, while the sharp rise in government indebtedness since the pandemic may have put upward pressure on neutral rates abroad, we estimate that this pressure has been likely modest. Importantly, the neutral rate estimates discussed here help us understand where policy rates may converge to in future years.
(拙訳)
総じて、コロナ禍以降の政府債務の急速な増加は海外の中立金利に上方圧力を加えたが、この圧力は小幅であった可能性が高いと我々は推計する。重要なのは、ここで論じた中立金利の推計値が、将来において政策金利がどこに収束するかを理解する手助けになる、ということである。