確率的な経済における無期限の債務借り換え

いわゆるドーマー条件*1にあるように、金利rが成長率gを下回っているならば借り換え(ロールオーバー)は無限にできるが、rとgが確率的な場合はどうか、という点を追究した表題のNBER論文をコチャラコタ上げているungated版へのリンクがある著者のページ)。原題は「Infinite Debt Rollover in Stochastic Economies」で、著者はNarayana R. Kocherlakota(ロチェスター大)。
以下はその要旨。

This paper shows that there is more scope for a borrower to engage in a sustainable infinite debt rollover (a “Ponzi scheme”) when interest/growth rates are stochastic. In this context, I prove that the relevant “r vs. g” comparison uses the yield r_{long} to an infinite-maturity zero-coupon bond. I show that r_{long} is lower than the (risk-neutral) expectation of the short-term yield when it is variable, and that r_{long} is close to the minimal realization of the short-term yield when it is highly persistent. The paper applies these results to illustrative heterogeneous agent dynamic stochastic general equilibrium models to obtain weak sufficient conditions for the existence of public debt bubbles.
(拙訳)
本稿は、金利/成長率が確率的な場合、持続可能な無限の債務のロールオーバー(「ポンツィスキーム」)を借り手が行う余地が増すことを示す。その中で私は、これに関係する「r対g」の比較では、満期が無限のゼロクーポン債の利率rlongが用いられることを証明する*2。rlongは(リスク中立的な)短期利率が変動的な場合にその期待値より低いこと*3、および、短期利率が極めて持続的な場合にrlongがその最小の実現値に近いこと*4を私は示す*5。本稿は以上の結果を説明するために不均一主体の動学的確率的一般均衡モデルに適用し、公的債務バブルが存在するのための弱い十分条件を得る*6

*1:cf. ドーマー条件、NPG条件、Bohn条件 - himaginary’s diary

*2:ungated版の導入部では、T年債務をロールオーバーすることは、今日資源を受け取ってT年後にそれを返上することに相当し、従ってT年満期のゼロクーポン債を発行することと等価である、という説明がなされている。Tの無限大への極限を取ればその利率はrlongとなる。ここでrlongは、そのマルコフ過程が正の遷移行列のマルコフ連鎖ならば、非ランダム的になるとのこと。

*3:ungated版の導入部では、現在の期はゼロだがその後に50%の確率で10%に跳ね上がる短期金利を考えた場合、31期後に1000ドルを得たいリスク中立的な投資家は、0%と10%の平均である5%で割り引いた額ではなく、10%と5%で割り引いた額の平均を投資する必要があるが、複利の凸性によって後者の投資額=1000(0.5/1.130+0.5/1) = 529 は前者の投資額=1000/1.0530 = 231より大きくなるため、長期の利率は1期の平均利率の期間平均より低くなる(この例では2.1%)、と説明されている。

*4:ungated版の導入部では、前注の例で30年の代わりに3000年を考えた場合に長期の金利が事実上ゼロになること、および、そのことは高利になる確率が1に近くても成立することを直観的な説明として示している。

*5:ungated版の導入部では、短期金利の変動性と継続性を許容すると持続可能な無限の債務のロールオーバーがより可能になる、という点を強調している。

*6:ungated版の導入部によれば、公的債務バブルが存在するのための条件とは「rlong ≤ 0」との由。ここでgが確率的な場合は、各期・各状態にて1期のリスクフリーレートからそのgを差し引いてトレンドを取り除いたゼロ成長経済を構築する、という操作を行うとの由。